2月14日。
某お菓子会社の陰謀によって生まれた、女の子が男の子にチョコレートを渡す日。お母さんにその会社の名前を聞いたとき、なんて余計なことをしくさりやがって畜生とも思ったけど、そこのチーズケーキはたまらなく好きなので、乗り込むのは諦めようと思い直した記憶がある。

去年はどうだったか忘れたけど、今年はよりにもよって平日。学校があるってことは、学校にいかなきゃならないってわけで。

「高校生だったらよかったのに…」
「文句垂れてないで学校行けー」

ケラケラ笑う私の兄は、結構モテる方の顔立ちをしていて。弓道部のホープだかエースだかで、更にたちが悪い。

「私は出来ることなら中学に戻りたいけどね」

ため息つきつつ朝ごはんを食べるのはお姉ちゃん。お兄ちゃんとは違って優しくて、それでいて美人で。でも、お兄ちゃんと同じ弓道部。(ちなみに私も弓道部)大好きなんだけど、そんなこと言うくらいなら変わってくれ!(と言ったらお母さんから定期入れが飛んできた。痛い)

高校1年生のお兄ちゃんと、2年生のお姉ちゃんは今日が入試だかなんだかで。学校に行きたくてもいけないらしい。…うらやましい。ちなみに私は入試はどうしたと言われそうだけど、残念ながらB日程なんですー!そして翼もB日程だから学校にいるんです。
…本気で行きたくない。

「いいからさっさと行きなさい!」
「はーい…」
「あ、!チョコ忘れてるよ?」
「あー…お兄ちゃんにあげるよ」
「マジで?やりーっ」
「こら!…翼くんの為に作ったのに、持っていかないの?」

お姉ちゃんは首をかしげてかわいらしく言うけど、そんなの通用…しな、いんだからね!うん。(ぐらっときたけど)

「いいの!行ってきます!」
「あ、!……いっちゃった」
「いただきまーす」
「駄目に決まってるでしょ馬鹿」






「ね、持ってきた?!」
「あたり前でしょ!ほらっ」
「うわ、かわいいー!」
「頑張ったんだー昨日!」

周りからピンクのオーラ(寧ろハート)の破片が飛んでくる。よくもまぁあそこまでギラギラと…勉強しろよお前ら。ちなみに私は筆記試験ないからいいのよ別に。勉強がなんだ!面接だけの高校選んでよかったー。

校門をくぐって玄関に入ると、思いのほか翼の下駄箱にはチョコは1つしか入ってなかった。あれ?と思っていると、一人の女の子が下駄箱に近づき、入っていたチョコを勝手に持ち出し。自分の持っていたチョコを丁寧に置くと、下駄箱から出て直ぐにあるゴミ捨て場の大きなゴミ箱にチョコを惜しげもなくポイと捨てた。後で見ると、そこには他にも大量のチョコがあり、私がいるのにも関わらずチョコを捨てていく女の子がいるのを見ると、なるほど、こうやって自分のチョコをアピールするんだと関心した。

教室に入ると更にすごいことになっていた。流石に教室内でチョコを捨てあう、なんて馬鹿な真似はしないらしい。(そりゃ見られるもんね。友情もくそもあったもんじゃないわ)机には翼の姿はなく、あぁ逃げてるんですかと思いながらも。 HRが終わったらダッシュで屋上に向かう計画を練り上げていた。

今日はバレンタインデー

私の鞄にチョコはナシ。

流石に少女漫画みたく愛しの彼と隣の席、なんてわけではないけれど、五助の席が隣なので必然的に翼はこっちにくる。チョコが無いなんて知られたら、たまったもんじゃない。どうせ今日は部活はないんだし、終わったら速攻で逃げれば私の勝ちだ。ざまぁみろ!

HRが終わると同時に私は教室を走って出た。案の定翼はびっくりしてる。やったねガッツ!





「わー…寒いなこりゃ」

マフラー持って来てよかった。死んでるぜこの寒さ。

明日受験って時に授業さぼるなんてどうかしてるって言われそうだけど。でもいいんだよ別に。あの映画この間見たし。それに

「一度でいいから、1日中屋上で過ごしてみたかったんだよねー…」
「何スかその夢…」

誰?!つ、翼?!いやでも翼は敬語(敬語か?これ)使わないし、それにこんな低い声してない(失礼、渋い声)してない…ってことは

「なんだ、まさきちゃんか」
「やめろっつってんだろその呼び名」

何おう!先輩には敬語でしょ!全く!ペシンと頭を叩いてやると、予想以上にいい音がした。痛いかなーって思ったけど、まえにちーちゃんがいい音がした方があまり痛くないんだよって言ってたから、まぁ大丈夫でしょ。まさきちゃんだし。

「つーか、何してんスかこんな所で。明日受験でしょ」
「いいんだよーだ、別に。言われると思ったけど!」
「受験に響いたりするんじゃないんスか?」
「別に、今映画タイムだし、うちの先生もサボっていいぞって言ってたし、いいんだよ別に」
「誰だ担任」
「ティーチャー薔薇西」

そのあだ名にマサキはいつもの笑い方でクックックと笑い出した。いいじゃん、薔薇西。うちのクラスの人皆言ってるし。先生気に入ってたし(本当だよ!だって薔薇飾ってるんだよ?!)。

「ところで、持ってきたんだろ?チョコレート」
「……」
「…先輩?」
「………」

まさか、というのが聞こえた。そうさ、持ってきてないさ。忘れたわけでも作ってないわけでもないのに、持ってきてないさアタシは!

「…何してんだよ…」
「だって、いいじゃん。翼はいろんな女の子から貰ってるんだから。
アタシのチョコなんて要らないんだよ、別に」

「誰が要らないなんて言った?」


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。


「持って来てないなんて、いい度胸してるね??」
「つ、ばさ?うふふ、どうしてこんなところにいるのかしら」
「それはこっちのセリフだっつの。しかも、柾輝と2人っきりってのがなお気に食わないね」

こめかみがピクピクしてるよおにいさん。綺麗なお顔が台無しよ!あぁ、殴らないで拳が怖い!しかも柾輝いつの間にかいないしね!裏切ったなあの野郎!

「ところで、何で持って来てないの」

アイタタタ。痛いところをついてきたねこの兄さんときたら。何でって言われても、そんなの乙女心からくるジェラシーですよ。

「わけのわかんないこと言わなくていいから。何で持ってこないのさ」
「だから、乙女心からくるジェラシーだって」
「訳わかんないんですけど。日本語喋れよ」
「バリバリ日本語じゃん!」
「ジェラシーは英語だよ」
「…!」
「(コイツ、本物の馬鹿だ)」

どうしよう、言うべきかな。
大好きなんだよ、翼のこと。
本当はチョコ作ったんだよ。
だけどさ、翼はいい人だから。皆からチョコ貰うじゃない?
それを、全部持って帰るじゃない?

そんなことしないで、全部捨ててなんて 言えないじゃない?
私のチョコだけ貰ってなんて 言えないじゃない?

どうしたらいいかなぁ…もうやだ、涙出てきた。
ビックリしてるよ。そりゃそうだ。

「もう、わけわかんな…っ」
「訳わかんないのこっちだって、何度言えば分かるのさ…兎に角!泣くなって…」
「出てくるもんは仕方ないじゃんどないせっちゅねん翼のバーカ!」
「バ…っ、殴るよ…?」
「殴ればいいじゃん、それで気が済むんなら殴ってみろバーカバーカ!女顔!」

あぁ、もう殴られるよ。ブチって音聞こえたもん。そんな力いっぱい肩掴むなよ。痛いんだってば。ていうか顔近…近い?

「?!」

気付いたら、キスされてた。どういう状況?!

「んっ…ん、んんん!」

抗議の声上げようにもふさがってるのであげられない。ていうか苦しいんですけど。わかってるのコイツ?!

「ん、ふ…っぁ、んむっ」

離れたと思って安心してたら、生暖かいものが入ってきた。属にいうベロチューってやつ?初めてかも、ていうか何でこんなに冷静なんだろう。頭は冷静だけど体がテンパってるよ。

「ふ、ん!…っは…!」
「いたっ!おま、舌噛むなよ!」
「い、入れてくる翼が悪いんでしょう!び、びっくりした…っ」

心臓がバクバクいってる。は、破裂するのかな…!顔あっつい…絶対真っ赤だ、こんな顔見せらんない。

「…悪かったよ」

でも、お前だって悪いんだからな!といわれた。どうやらコレは、持ってこなかった仕返しらしい。仕返しにしては、こう…辱めが…

よく見たら翼の顔も赤い。一応、照れてくれたのかな。なら、いいかなーなんて言ってるあたり、翼に弱いのか。はたまた、ただの馬鹿なのか。あぁ、あれか。わかった。





私は翼馬鹿なんだ

(帰ったらケーキあげよう。でも、なーんか忘れてる気が…)


***
恥ずかしいものを書いてしまった。あーちゃんからリクエストで、「バレンタイン翼夢」です。中途半端な終わり方…
受験なんて2年くらい前のことなので、A日程がどうしたB日程がどうしたなんて覚えてないです。だから適当。でも映画は見た!っていう記憶だけで書きました。因みに私のときはアイロボットです。
タイトルの意味が分かった人。お友達になりましょう


xxx --- 2007.02.14