意外な一面
「あ、あのさ、阿部くん」
「何?」
振り返らずに、そのままボールを磨きながら、阿部は返事をした。それにめげずに、は言葉を続ける。
「あ、明日暇、かな〜…なぁんて」
「明日も練習」
「うっ…」
ずばっと一言で切り返された。その通り、野球部には休みの日があまりない。たった10人しかいない、しかも全員が1年生という新設の硬式野球部。彼らは他校からの実質的な遅れを取り戻すため、日々練習に励んでいる。
もちろん、マネジであるだってそんな彼らを日々サポートしているのだ。
「そ、そうだよね。…やっぱ練習第一! うん、今の言葉忘れて」
なるべく明るい声と表情では言った。すると、今まで顔さえ向けなかった阿部が手を止め、くるりとへ向き直った。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「や、別に…」
「いいのか?」
じろり、とまるで睨まれているように感じる阿部の視線に、は少しひるんだ。しかし、ここでひるみっぱなしにならないのは、「恋人同士」という関係からだろう。
「よく、ない…。けど、やっぱ、いい…」
「あのな…。『明日誕生日だから一緒にいたい』って言いたいなら言えばいいんだ」
「え、なんで知って…!」
「そりゃ知っているさ。恋人の誕生日ぐらい」
臆面もせずそう言われ、逆にの方が真っ赤になった。自分の誕生日を目の前の人物に言った記憶はない。なのになぜ、それを彼が知っているのか。
「…なんだ、知らないほうがよかったのか?」
「う、ううん! 知っててくれてびっくりしたっていうか…嬉しいっていうか…」
はにかみながら笑うに、阿部は思わず抱きつきたい衝動に駆られたが、ここがグラウンドだということを念じ、何とかそれに耐えた。
「っ…。あ、明日はいつもより早めに部活が終わる。その後でいいなら、どこにでも付き合ってやる」
「ホント? ありがとう!」
その笑みを見て、ついに耐え切れなくなった。
を抱きしめてしまった阿部は、その後仲間から囃し立てられ、監督からは密かに隠されていたま○いプロテインを飲む刑に処された……