オレがスペインのチームに入団すると決まって3日が経った。
学校内は段々と静まりかえってきている。いや、もうそろそろ完全に静まってほしいと思っているのはオレだけじゃないハズだ。
隣でこれからの進路で悩んでいるもそう思っていると思う。
オレはもう進路は決まったがたちはまだまだこれからだ。
もうオレには関係ない「今後の進路」というタイトルのプリントを手に取り一通り読んでみた。
簡単なアンケートのようなものだった。だが、簡単なものではない。これで人生が変わるのだから。
進学か就職かとまず初めに問われている。
「は就職だろ?」
「うん。市内はもちろんだけど、県外どうしよう・・・!てか、どんなとこに就こう!!」
「が県外に就職?大丈夫なわけ?」
「だって翼が近くにいないんだよ?市内にとどまる意味なくない?」
「その他の欄にスペイン市内って書いてみるか」とのプリントを見ると本当に書いてあっておもわず笑った。
本気でこれを担任に提出するのだろうか。本人は良い案思いついた、といわんばかりの笑顔だ。
「あ、私スペイン語しゃべれない!」
「オレもしゃべれないけど」
「え、どうすんのさ。これから?」
「これから覚えるよ。基本的なものは覚えておきたいし」
ペンケースからケシゴムを探し出し、スペイン市内を消す。やめるの?と尋ねれば無言で頷く。
「翼と離れるなんて考えられないのに、翼が外国でサッカーしてるのは普通だと思ってたんだ、今まで。
実際こうなってみたら、私はどこでなにしてるんだろうね」
「オレはがスペインに一緒に来てくれたらすごい嬉しいけどね。でも、そこまでの人生を奪っちゃいたくないし」
「・・・なんでスペインさ!高校生はJリーガーからで充分でしょ」
「そんなこと言うなよ。スペインのチームがオレを欲しいって言ってくれてるんだぜ?
スペインが日本の高校生をチェックしてるんだよ。この間のU-18日本代表でスペインとやったのがデカイと思うけどね」
盛大にため息をついて机に突っ伏した。オレは肘杖をついてつっぷしたままのを見ている。
こうやって自分の進む道が来るとは思ってはいたが、現実はそう簡単ではない。
周りを巻き込んでいる、という実感がふつふつとわいてくる。
「もっとオトナだったらな。自分の人生どんな風に生きてもいいって」
「今はダメなの?の親ってうるさかったっけ?」
「ううん。翼がスペイン行くって知ったときは凄い盛り上がりだったよ」
「じゃ、自分のすきなようにしたらいいじゃん」
ムクっと起きて、こっちを見る。なにかを決心したような目だ。
「翼に言って欲しいことがある」
「別れよう以外なら」
「そんなこと言われたらショックで立ち直れないよ!その、反対を言ってほしい」
別れようの反対?・・・結婚しよう?まさかね。オレもも18だからって。
無責任な行動は取りたくないし。なんだろう。
はどんな言葉を待っている?は相変わらずアイコンタクトでも送るようにオレの目を見ている。・・・あ、わかった。
「はオレとスペイン行き」
アイコンタクトを送っていた莉胡の目が少しだけ大きくなった。
あれ、待ってた言葉と違ったかな?なんかビビッときたんだけど。
「・・・言ってほしい言葉とピッタリ合ってる」
「マジ?」
「一言一句間違いがないくらいピッタリで、びっくりした」
そう言ってボールペンを持ち、なにやら書き始めた。ボールペンで書くということは最終決定か。
ヨシ、と言ってボールペンのキャップを閉じる音がする。プリントを見るとその他の欄にスペインとだけ書かれている。
「一番下も読んだ?」
「・・・詳しいことは翼に聞いて下さい。オレかよ?」
「そうだよ、翼だよ」
「・・・まあ、いいけど。オレとと先生の三者面談だな」
オレの一言での人生が左右されることになったこの日をオレは数年後のある日ハッと思い出す。
まだ高3だったあの日、「お前らまだ高3じゃないか」と先生に言われたあの日、オレたちは本気だった。
手放せない理由
(あの日、の人生だけじゃなくて、も貰ったんだね)(なにそれなんか恥ずかしい!)
070924 家長碧華(4周年記念/心露さんのみフリー夢)
タイトル:てぃんがぁら様