「絶対勝つぞ!」
「おぉっ!」
今日はの試合を観に来た。の試合はいつも土日に行われている。そりゃ学校があるからね。土日は俺も試合か練習で重なっていた。オレは普通は月曜日が休みだから試合なんて観れなかった。
初めての試合が観れる。
なんだか父親失格な気がしてたんだ。今までの試合を観に行ってないってことに。仕事で重なるっていうものを理由にしたくなかった。だから、今日はしっかりを観ようと思う。
「9番誰マークしてたの!」
「シュートコースあいてる!」
「声出てないっ!」
へぇー・・・思ってたより指示出せてんだ。試合の話はよくから聞いてるけれど、うん、動きもいい。流石俺の息子。センターバックの素質は十分あるな。
俺はのチームのベンチから少し離れたところで観ていた。監督らしき人物がFWに指示を出す。「DF!ライン上げろ!高く保て!」これはコーチだ。がよく言ってるコーチだと思う。
一番若くて茶髪のコーチだと教えてもらったことがある。
0−0でハーフタイムを迎えた。給水を取りながら、監督の支持を真剣に聞く子どもたち。子どもだからといっても立派なサッカー選手だ。
は俺の存在に気付いていないようで、でも、周りの母親たちが気付き始めてる。
ハーフタイム終了のホイッスルが鳴り、グラウンドへ戻ろうとしたとき、と目が合った。「声しっかりな」と言ってやると、こくんと頷き仲間の輪へ入っていった。
センターバックの位置について、キャプテンマークを少し上に上げ気合を入れている。
試合は2−0での完封勝利。今はチームでミーティング中。それが終れば帰れるから、せっかくだしと他の試合を観ていた。
「あ、あのッ!椎名選手ですよね!?」
興奮と緊張が入り混じった声が後ろから聞えてきた。振り返るとどこかのユニホームを着ている。と同い年だろうか。より少し背が高い気がする。真っ黒に焼けていて、膝なんかは傷だらけ。
毎日サッカーやってます!っていうサッカー少年だ。
「そうだけど?」
にっと笑ってみせると、少し緊張が解けたようだ。
「オレ、椎名選手に憧れてセンターバックやってます!頑張って背番号も4をもらいました!」
くるっと回って俺に4を見せる。サッカー少年にそういわれると素直に嬉しい。俺のプレーを観て、何かを感じて、何かを覚えて、自分もやりたくなる。スポーツの素晴らしいところだ。
それを俺は少なくとも、この少年に与えてあげられた。
「そうか。俺も嬉しいよ。欲しいのはサイン?」
「・・・サインも欲しいけど、マッキー持ってないから・・・握手してください!」
少年に握手を求められるとは・・・俺は笑って手を差し出した。小さな手を握ってやる。
「次はキャプテンになってるようにね。そしたら完璧。俺と一緒」
「はいっ!頑張ります!ありがとうございました!」
「ん、またな」
嬉しそうに戻っていく少年。チームの名前聞いておけば良かったかな。黄色のユニホームに青の短パン、後でに聞いてみよう。ふと気付くと、キャーキャー言ってる母親がたくさんこっちを見ていた。
うわ、めんどくさいことになってきたな。ファンは嬉しいんだけど、こういうプライベートなときに会うのは嫌なんだけど・・・。
「あ、いた!父さん!終ったから帰ろう!」
ナイスタイミングでミーティングが終ったが小走りでやってきた。が待ってる我が家に帰れる。
「あの子が椎名選手の息子?」
「上手いのかしら、やっぱり」
「さぁー・・・どうかしらね」
ちらっとを見ると、少し下を向いて悲しそうな表情をしてるのがなんとなくわかる。あぁ、内面はに似てるんだったな。
「今日、良かったぜ?そこら辺のやつに何と言われようが、自分のプレーに自信持て」
「・・・うん。で、周りにもオレは上手いって言わせてやる」
「よく言った。さー、が夕飯作って待ってるって。早く帰るぞ」
「今日のご飯はなにかなー。お腹ペコペコだー」
エナメルバッグが重そうで、まだの身体にしてみれば大きくて、歩くたびに身体に当たって大きく揺れている。持ってやろうか?と尋ねても「大丈夫ッ!」と肩ヒモを抑えてそのまま歩いていく。
ホントはを待っている間に他のチームのお母さんたちの話を小耳に挟んだ。
「椎名くん、お父さんの名前とかじゃなくてやっぱり上手よね」
はで頑張ったってことを他の人はちゃんと観て、わかってくれてるんだ。わかってないやつにはこれからわからせてやればいい。きっと、まだが戦ったことのないチームのお母さん方だろう。
一度戦えばの強さはわかるはずだ。
・・・オレも親バカかな?
「あ、父さん。今度は母さんと一緒に観にきてね」
「そうするよ。その方がオレもゆっくり観れる気がする」
「なんで、今日は母さん来なかったの」
「あー椎名選手の奥さんだったんですか!?ってなるのが嫌なんだって」
「変なの。母さんは母さんで、父さんは父さんだろ?」
休日の過ごし方
(とのサッカー観戦デートもいいかもね)
080420 家長碧華
タイトル提供:vague