今日は予餞会という、3年生に感謝の気持ちを伝えるための行事だ。この会は、部活単位でやる。クラスとかは全く関係ない。部活に入ってないやつらは、ちょっとつまんないかもしれない。
オレはジュビロのユースだから部活に入っていない。入れない。だから、知っている先輩も少ない。つまり、オレにとってこの会はつまらない行事だった。
それぞれの部がダンスや歌を歌って、最後に感謝の言葉を言って終わる。先輩がいなくなる悲しさから泣いている後輩もたくさんいる。でも、ソレにも流石に飽きてきた。25近くある部活のほとんどがそのパターンだ。
ダンスして、感謝の言葉言って、ちょっと泣いて、終わる。飽きてもくるだろ!?仲の良いやつがステージで踊ってたら別だけど。サッカー部のは女装して踊っていた。マジ爆笑。
帰宅部のと一緒に笑いながら見ていた。後で茶化してやろう。お前、女でもいけんじゃねえの!?と。
同じ帰宅部のは友達に誘われて有志として踊るらしい。3年の先輩となんて全然関わってないくせに。「ステージで踊ってみたいんだもん」という、ただそれだけの理由で。
のダンスを見るのが今日のオレのメインだ。の女装ダンスはサブだ、サブ。
「これで部活発表を終わります。次は1、2年生の有志発表です。準備が整うまでお待ち下さい」とアナウンスが入った。お、とうとうきたなメインが。も着替え終わってオレの隣のイスへやってきた。
早速茶化してやると、「オレはやりきった!」と晴れ晴れとしていて、更に笑った。
「オレ、がどんなダンスやんのか知らないんだけど」
「圭介が知らねえなら、オレらが知るわけないだろ」
「そうかー?」
「そうだろ」と両サイドから攻撃される。「それでは、1組目の有志です。お願いします」とさっきと同じ人の声でアナウンスされる。1番目にやるって言ってたから多分コレだ。
真っ暗でがどれだかわからない。そのまま音楽が流れ体育館に一斉に歓声が起こった。音楽の爆発音と共にライトが点く。更に歓声は高まった。は前の列で踊っている。なかなか、かっこいいな。
「、ダンス巧いじゃん」
「オレもビックリ」
「てか、細ッ!」
あーんー、ソレ、オレも今思った。の着てる黒のTシャツは身体のラインが一目でわかるようなもので。まあ、オレは、うん、彼氏だからアレだけどとかとかはな!
制服姿かジャージ姿しか見たことないからな、こいつらは。
いろいろ心の中で毒づいては見るものの、がイチバン可愛いと惚気てみる。前、なんかの拍子でそう似たようなことをに言ったら「オレの彼女の方が可愛い」と反論してきた。アレは笑ったなー。
やっぱ自分の彼女がイチバンなんだって思ったし。「ソレに言ったらサッカーボール飛んでくるぞ」と忠告も受けた。あいつ今、彼女いねえからな。でも、サッカーバカだし、作ろうとしてねえじゃん。
まあ、サッカーバカはオレもだけど。オレには可愛い彼女がいるし!そこがとのサッカーバカの違いだな!
音楽が終わると同時にライトが消えた。拍手が起こる。オレも大きく手を叩いた。今日初めてのダンスを見たけれど、キレがあってかっこよかった。違うを見た感じだ。
2組目の有志が始まろうとしていたとき、がやってきた。「ちょっと間違っちゃった」と笑っている。すげえ、かっこよかったよと言うと照れた様子で「ありがとう」とまた笑った。
空いているイスを引っ張ってきて、座らせる。たった今激しいダンスをしてきたばかりで、ちょっと肩で息をしていたから。「圭介、気ぃ利くな」とが真顔で言うもんだから、なんだかちょっと恥ずかしくなる。
だって、が大事なんだ。そんなことは、絶対言わねえけど。
「凄かったぞ!」
「ありがと!は女の子になると、結構可愛いねー」
「女装とか笑うよなー!」
「うるせーな、!」
オレたち男子3人でいるのも楽しいけど、が加わるとちょっと雰囲気が変わる。どう変わるのかは言葉では言いにくいけれど、変わるのは確かだ。和むっていうか、なんていうか。
男子3人と一緒に居ても女を武器にしたりしない。女子ってよくあるじゃん!色気使ったりさ。オレそういうやつすきになれないし・・・。ソノ点はは完璧だ。こう思うのも彼氏なら当たり前だよな?
てか、着替えないのかよ?そのままでここに居るつもりか?今は踊ったばっかで暑いかもしんねえけど、オレなんて普通に制服着てても寒い!着替えてこいよ。
なんだか、着替えて来い!と切羽詰った言葉を言うのは気が引けて、オレ的にやんわりと尋ねてみた。
「、着替えないのか?」
「んーどしよ。ちょっとめんどう」
「圭介は、きっと着替えてほしいんだって」
「なんで?」
「のかっこがエロいから」
「お、まッ!!!」
「あー言っちゃったぜ。ま、そういうことなんだって、。着替えんのめんどうなら圭介からカーディガン借りれば?」
とりあえずのイスを軽く蹴って、(オレの脚がこんなことで怪我したら、たまったもんじゃない)ブレザーもカーディガンも脱ぐ。ワイシャツ1枚じゃやっぱ寒い。
カーディガンをの膝の上に置いてブレザーを着なおす。の視線はオレとカーディガンを行き来している。
オレがやんわりと尋ねた意味が、のせいでパーだ。このあと、購買でピーチティーを奢ってもらうしかないな。それにパンも2つくらい奢ってもらったっていいだろう。
「の言った事は、半分あってる」
「じゃ、他の子のかっこもエロいって感じるの?」
「いや、だけ」
「変な圭介ー」と言ってカーディガンに腕を通す。「彼女だからそーゆー目で見ちゃうんだって!」とまた余計な一言をが言う。今度はケツを蹴り上げるぞ、お前ッ!
は大笑いしてるし、は「圭介やらしー」と、これまた笑っている。だからさ、見ちゃうだろ!?見なくても、少しは気にするだろ!?オレってやらしいのか!?健全な男子高校生だろ!!
はオレの気持ちをわかってくれてるやつだと思ってたけど、あいつはオレをからかって遊んでいるだけだ!もういいッ!今度からはに言うようにするッ!
サッカーボールが飛んできたら、オレはトラップしようじゃないか!周りが「おおッ!」と歓声を上げるぐらいキレイなトラップをしてやろうじゃないか。ジュビロユースの司令塔を舐めるなよ。
なんだかいろいろとよくわからなくなってきた。とりあえずがカーディガンを着たからよしとしよう!オレのサイズの大きいカーディガンを着てるもなんかちょっとエロい気がしないでもない・・・。
だぼってなって、手が出てなくて、オレのを着てるってのが、なんかやばい。やっぱり着替えてくれば、問題はないんだ!けど、着替えて来い!って強く言えないだろ!なんでか、言えないんだよ!
そこまでに気づかれていないと思うと、ちょっと安心。またからかわれるのはごめんだからな!
別にステージでダンスしたり、動いてるわけじゃないのにすげえ疲労感がある。オレの中で予餞会はすごく疲れる行事として、認識された。
この想いは伝えきれない
(来年も踊るって言われたらオレどうしたら・・・)
080502 家長碧華
タイトル提供:MISCHIEVOUS