母の日はカレーを作ろう。毎年、母の日が近くなってくると流れるCMを見て、あ、そういえば今日って母の日なんだ、と気付く。お母さんになにも買ってあげてないやと苦笑して、洗い物を片付ける。
リビングでは翼とが笑っている。なにが面白いのだろう?タオルで手を拭き、二人の許へと近寄る。
「なに楽しそうにはなしてるの?ママも入れてよー」
私が翼の隣に座ると、翼が「ほら、ママ来たぞ」と自分の膝に乗せていたのお腹をポンポンと叩き、ニッと笑った。それにつられるようにも「待ってて!」と笑い、タッタッタと駆けて行く。
二階へ行くってことは自分の部屋?
「、どしたの?」
「いーから。待ってなって」
翼はさっきもに見せた笑顔でそう言うだけだった。なによ、二人して。男同士で仲良くしちゃって、寂しいのー。
「拗ねない、拗ねない」となだめられる自分が子供扱いされているようで、少し恥ずかしい。
勢いよく階段を下りてくる足音が聞え、がリビングへ戻ってきた。後ろ手でなにかを隠しているようだった。私の目の前に立ち、「えっとー・・・」と恥ずかしそうにする。
「恥ずかしそうにしてるとさっきの、そっくりなんだけど」と笑う翼の膝を軽く叩く。もう!翼のばか!
「ママ!」と呼ばれ、「ん?なに?」と翼の膝の上に手を置いたままを見やる。
「いつも、ありがと!」
男の子にしては高い声でそう言われ、差し出されたものは私の似顔絵だった。幼稚園で描いたものだろう。
クレヨンで大きく描かれた私の顔はいびつだけれど、にっこりと笑っていて、「だいすきなママへ」とこれまたいびつな文字で書かれていた。
私に似顔絵を渡すと恥ずかしそうにまた翼の膝の上に乗っかって、小さな身体を翼の大きな胸に埋める。私の反応が気になるようで、ときどきチラッと隙間からこちらを伺っている。
「、ありがとー!ママすっごく嬉しいよ!」
「ホント!?」
「うん!ママもだいすきだよー!」
そう言うとニカッと翼にそっくりな笑顔で私の胸に飛び込んできた。「どれ?オレにも見せてよ」という翼にからのプレゼントを渡し、ぎゅーっとを抱きしめおでこにキスをする。
「、絵上手いじゃん」と翼に頭を撫でられて嬉しそうに笑う。本当に笑った顔は幼い頃の翼にソックリだ。
流石に幼い頃の翼を知っているわけではないが、翼のお母さんが持ってきてくれた写真で見る限りソックリだった。「将来、翼くんみたくかっこよくなるわねー」と気が早いのは私のお母さんだ。
ぎゅーっと抱きしめると、の小さな手が背中に回って服の端っこを掴んで、返してくれる。子供の高い体温が、のフワフワの髪が心地よい。
「あ、先生からの手紙が付いてるけど?」
似顔絵をひっくり返すと、右下に折りたたまれたピンクの紙が貼り付けられていた。くんのご両親へと書かれている。翼がその手紙を開くと、キレイな読みやすい字で下まで埋まっている。
読んでみてよと翼を促すと、「くんのご両親へ」と翼の声が続ける。
「くんはママの笑顔が本当にだいすきなようで、ママを描くときはいつも素敵な笑顔のママを描いていました。この絵を描くときには、なんでママなの?
パパは描いちゃダメなの?と悲しそうな顔で尋ねてきて驚きました。そんな質問をしてきたのは、くんが初めてでした。くんはパパもだいすきなようですね。
父の日があるから大丈夫だよ、というと、良かった!と笑ってこの絵に一生懸命取り組んでいました。とっても上手に描けています。・・・だって」
「へー。、パパの心配もしてくれたの?」
「だって、先生ママを描きましょう!って言うんだもん。パパも描いてあげたいでしょ?」
「ね?」と首を傾げ、「ボク、パパもだいすきだし」と付け足すを本当に愛しいと思う。親バカかもしれない。いや、親バカだ。完全なる親バカだ。翼を見やると嬉しそうに笑っていた。翼も親バカだなー。
ピッチではまず見られない笑顔をしている。パパの顔っていうのは、こういう顔を言うんだなーとしみじみ思う。
翼から似顔絵を受け取り、を預ける。コレは飾っておこう!と画鋲を引き出しから取り出す。写真を飾っているスペースの隣に貼られた私の似顔絵。来月には隣に翼の似顔絵も増えてることだろう。
再び、翼の膝の上に収まっているは自分で描いた絵を見て満足した様子で笑っている。
「パパの似顔絵も楽しみだね」
「うん!パパ楽しみにしててね!」
「期待して待ってるよ」
この世のすべてを美しく思える時がきたら
(優しい子に育ってくれて、ママ嬉しいな)
080511 家長碧華
タイトル提供:coral