「おはよー」
「おはよう」
自分の席に着くとはオレに朝の挨拶をしてくる。席替えをして隣にが来てから、ソレは当たり前になっていた。いや、ソレは普通に考えて当たり前なことだろう。
オレから挨拶をしたことは一度もないが、はいつも笑顔で「おはよう」と言ってくる。オレも悪い気はしないから、同じ言葉をに返した。
「英語の宿題やった?」
このクラスで方言を使わないのはオレと莉胡だけ。別に方言が嫌いなわけじゃない(弟が方言を使っているから慣れているし)が、何故か少しだけ安心する。
自分の席に座りながらが訊ねてきた。英語の宿題なんてやってくるはずもない。そんなもの出されていたということ自体覚えていない。そう告げたらは「やっぱり」と呆れたように笑った。
「豪ちゃんとキャッチボールしてたんでしょ。青波が言ってたよ。お兄ちゃんは豪ちゃんと野球しに行ったって」
「青波またん家行ってたのか?」
向かいにあるから、青波は最近「自分の部屋」のように遊びに行っているらしい。母さんは「うちに連れてくればいいじゃない」と言うのだが、青波が「あっちに行きたいんじゃ」と言い張る。
なにがそんなに行きたいと言わせているのかは、オレにもわからない。むしろ、オレよりの家に行ってるんじゃないかと思う。
と青波の仲の良さは以上かもしれない。実の姉弟のように仲が良く(いや、実の姉弟より仲が良いかもしれない)悔しいが少しだけ青波に嫉妬してしまっている自分がいる。
そんなこと恥ずかしくて誰にも言わないが、青波に意味もなく苛立つことがあるのは事実だった。だから、青波が絶対にいない学校の時間だけは青波のはなしは聞きたくなかった。
「英語って何時間目?」
「1時間目」
「・・・マジで?」
「マジ、マジ」
自分のカバンの中から宿題だったらしいプリントを探し出す。多分これだろう。宿題、という自分でメモを取った跡はない(そんなこと今まで書いたことがない)虹のプリントを写すにしろこの量をあと数分でやるのは無理だ。
プリントを貸してくれと頼むともゴソゴソとプリントを探し出し始める。
「昨日うちに来て教えてくれればよかったのに。昨日に限って、うちに来なかっただろ」
「昨日は、うん、ちょっとね。ほら、青波来てくれたし」
「・・・ちょっと、なに?」
「はい、プリント」
「ごまかすなよ。昨日どうしたんだよ」
「ちょっと風邪気味でだるかっただけ。それだけ」
ウソをついているような気がして、プリントを受け取ったら本当のことは言わないんじゃないかと思って受け取らないでいた。もソレに気付いたらしく空中でヒラヒラしていたプリントを机の上に置いた。
風邪気味だってわかってないから青波は遊びに行ったのか?それとも風邪気味だから、行ったのか?・・・あいつなら考えられそうだな。そういうの敏感だから。なら、なんでオレに教えてくれなかったんだ。
の彼氏はオレだと青波もわかっている。最近の青波なら、「大事な人なら自分で気付くべきじゃ」、と一人前に言い張りそうだ。
「今は?」
「好調、とはいえないかな」
「だるくなったら言えよ。保健室に連れてく」
「ありがと。ほらプリント。早く写さないと授業始まっちゃうよ?」
ああ、「宿題」をすっかり忘れていた。でも、プリントなんかもうどうでもいい。とりあえず受け取るだけ受け取ったけど写す気はない。もうすでに風邪を引いている、とわかるような表情をしている。
朝の会が終ったら保健室に連れていこう。こいつん家に電話しても誰も出ないから、オレん家に電話してもらえば母さんがいるはずだ。いなければオレが送りに行けばいい。
おはようの会話
(ったく、なんで学校来てんだこいつ・・・)
081207 家長碧華(拍手だったものをアレンジ)
タイトル提供:BIRDMAN