「自習だっ!先生いねぇって!」
クラスメートの男子が教室に飛び込んで来るや否や、そう叫んだ。クラスは先生がこない開放感からかチャイムが鳴っても静まる気配はなかった。
周りを見ると明日が期末テストだからか、真面目に勉強しているクラスメートが結構いる。だが、友達同士わからないところを聞きあったり、勉強せずにただおしゃべりをしている者もいる。
私はこんな煩い中じゃ勉強をしたくない。仲の良い友人はすでに睡眠モードに入っていた。ああなったら睡眠を妨げられるのを極度に嫌がる。あの状態では話しかけないのが最善だ。
なので、携帯をいじりつつデジタルオーディオで音楽を聴くことにした。
まずは、気になっていた大好きなサッカーチームの勝敗を確認。2-0という結果に満足し、得点者のところにお気に入りの選手の名前があり、更に満足。その下に翼のすきな選手の名前もあった。
前の席に座っている(机に突っ伏して寝ている)翼の背中を軽く叩く。どうせ、熟睡はしてないだろう。眠い、眠いと言ってはいたが学校で熟睡出来ないとも言っていたのを覚えている。
モソモソして、ゆっくり起き上がる。本当に寝ていたのだろうか。なら悪い事したかな?
「ごめん。マジで寝てた?」
「いや、寝てない。・・・どしたのさ?」
「ん」
まだ眠そうな顔の翼に携帯の画面を見せ付ける。ん?と私の手から携帯を取り画面を見る。
「あ、リヴァプールじゃん。勝ったんだ。おージェラードがゴール決めてる」
「ねっ!これで次決勝。テレビで生中継してくんないかな?」
再び私の手に携帯が戻ってきた。十字キーの下を押して決勝の相手をチェックしようとする。
「生中継するよ。決勝はね」
「うっそ!どこで!」
嬉しい情報に指が動いて、間違ってパワーボタンを押してしまった。あ、ページが閉じちゃった・・・!!こういうとき前回表示の機能があってほんとに助かる!
「BS朝日」
・・・BS・・・。そうだ、BSというものを忘れていた。私の家にはBSはない。スカパー!はついてるけどBSはない。
嬉しさは一気に吹き飛び、前回表示をする気も失せた。どうせ、観れないんじゃないですか。なら、テレビ中継をしないで頂きたい!変な期待は抱かせないで欲しい!
「・・・んとこBSなかったよな?俺ん家来る?」
「え、え、行くっ!!」
「(あ、生き返った)決勝いつ?」
「んーっとね・・・一週間後だ。てことは月曜の早朝じゃん。学校あるよー・・・」
「じゃ、泊まれば?母さん、この間泊まりにきて喜んじゃって。またいつでもおいで。だとさ」
「うわ、ホント?嬉しいなー!」
翼はまだ眠そうにしていて、今度は私の机で寝る体勢を取った。昨日の夜は一体なにをやっていたんだろう。翼がこんなになるなんて珍しいな。
私は翼の家にお泊りできるし、サッカーが観れるしとテンションが上がっていて眠気なんてこれっぽっちもない。ついでにいえばテストが迫っているということなんて全く頭に入っていない。
このテンションで翼に話しかけるのは流石に悪いな・・・!そう空気を読み取った私はなるべく大人しくしているよう努力した。偉い、私!
翼は私の机で突っ伏しているから、目の前に翼のフワフワな髪の毛がある。その赤茶色い髪の毛につい手が出てしまった。優しく触ると翼が「んー・・・」と言っている。
やわらかいなー。男のくせに!ピョンピョンと跳ねている髪が更に可愛い気がするのは気のせいか。
「おやすみ、つばさ」
そう言うと翼は本当に寝てしまったらしい。これが学校初の熟睡かもしれない。私がいたから、安心、してんのかな?
そうならいいなー!とつい頬が緩んでしまって、やっぱりテンションは上がりっぱなしな一時間だった。
いつもと変わらない日常
(翼?次の授業始まるよ?)(もうちょっと、寝かせて)
081228 家長碧華(拍手だったものをアレンジ)
タイトル提供:BIRDMAN