ふと急にアップルパイが食べたくなり、材料を買ってきた。パイシートは冷凍のものだけど(だってはやく作れてサクサクで素晴らしいんだもん!)美味しく作れればいい!という考えの私は冷凍のパイシートを良く使う。
これは4枚入りだからアップルパイが2つ作れる。1つは巧ン家で食べよう。午前中は巧は部活でいないだろうから午後に持って行こう。鼻唄を唄い上機嫌でアップルパイ作りに取りかかった。
オーブンで美味しそうに焼かれている証拠にアップルパイのいい匂いがキッチンとリビングにも広がっていた。オーブンをのぞけばいい色に焼かれたアップルパイが回っている。出来上がりまでもう少し!
時計を見ると12時を少し過ぎている。野球部の練習も終わって、巧が帰ってくる頃だろう。丁度いい時間だ。
アップルパイ2つを大皿にのせ、火の元を止めたのをチェックしカギをとって玄関へ向かう。落とさないよう注意をはらっているとピンポーンとインターホンが鳴った。うわ、誰かきた!
アップルパイをとりあえず棚に置き、はーいとドアを開けた。
「よ」
「アレ、巧。いいところに!そっち行こうと思ってたの」
「なんで?」
「アップルパイ焼いたからみんなで食べようと思って」
ほら、とアップルパイを見せると「うまそ」とのぞきこむ巧の反応に満足した。絶対美味しいもんね。出来たてをはやく食べたいから巧ン家に行こう?と促すと「ああ、今うち入れないから」とアッサリと言われた。
なんで?誰もいないの?カギないの?という問に巧は全て無言で頷く。だからユニフォームのままうちに来たのね。
「なんだー・・・誰もいないんだ。じゃ、とりあえずうち上がりなよ」
「腹減った。ソレ食っていい?」
アップルパイをテーブルに置き、お腹がペコペコだという巧のために腕を振るおうと冷蔵庫を覗いていると、ちゃっかりイスに座りアップルパイを指差している。
ご飯は?と聞くと「まずコレ食いたい」と言って私の了承を得ずにキッチンからナイフとフォークとお皿を2つずつ持っていく。
「一緒に食うだろ?」
「オレの昼ご飯は後でいいよ」そう言いながらすでにアップルパイは2つに切られていた。切る瞬間サクッと香ばしい音がして、後でいい、という巧に甘えることにする。
私は巧の向かいの席に座った。巧がお皿にのせてくれる。まずは巧に食べてもらっての感想が聞きたかったから、巧の動作をジーッと見つめていた。
「なにさ、。見られてたら食いづらいんだけど」
「いいから、食べて!ほら、食べてよ!」
巧は不思議そうに首をひねり、アップルパイを口に運んだ。どう?と聞くと、ちゃんと全てを飲み込んで「美味い」と真顔で言う。そこ笑顔でしょー!とはいわないが、せめて笑ってほしかった!というのが本音だ。
次々と口に運んでいくところを見ると自然と顔が綻ぶ。(部活後でお腹が減っていたから、なんて言葉はそのときの私の頭にはまったく浮かばなかった)
自分のお皿にあったアップルパイをペロッと平らげ、2つ目のアップルパイを切ろうとしているところを私は慌てて止めた。
「ちょ!青波の分とおばさんの分とかなくなっちゃうじゃん!」
「じゃー・・・青波の分だけとっておく。母さんのはオレが食う」
「えー・・・。もー」
「だって、が作るアップルパイ食うの久しぶりでめっちゃ美味いから。母さんが作るアップルパイは甘すぎなんだよ」
そりゃ、そうだ。巧好みの甘さにしたんだから。いくら青波にも食べてもらいたくても、やっぱり私は巧の彼女なんだ。無意識のうちに「巧のために〜」と考えてしまう。
普段の生活でもそうだ。「これ巧に似合うんじゃないかな」と考えたりする。
「これ食い終わったら、昼飯作ってほしいんだけど」
「・・・いいよ!なんでも作る!!」
「?どしたんだよ、」
「どうもしてない!」
自分のお皿に残っていたアップルパイを口に放り込んだ。目の前には再び首をひねりつつも、口を動かしている巧。すきな彼のために頑張っちゃうのが彼女ってもんでしょ?
3時前の美味しいおやつ
(なあ、)(ん?)(いつでも嫁にもらえるな)(え!?)
090119 家長碧華(拍手だったものをアレンジ)
タイトル提供:BIRDMAN