「スザクいるー?」
「ん?いるよ?どうしたの
「よっと!ちょっとこっち来て!」



生徒会室にはほぼ全員が揃っていた。が今来て、全員揃った。ソノは掛け声と共にカバンを自分の席に放り投げ、ちょいちょいと僕を手招きする。 「おい、。投げるなと何度言えばわかるんだ」と言うのはルルーシュで、の向かいの席がルルーシュの席だから投げる勢いを間違えるとルルーシュの席までカバンが飛んで行ってしまうのだ。 ソレでルルーシュは何度か顔にぶつかりそうになっている。

「あいつをちゃんと躾ておけよ」と言ったルルーシュに「ごめん」と僕が代わりに謝りの言葉を告げて廊下へ出る。ソノやりとりを聞いていたらしいが「なんで謝ってんの。躾なんてひどい。 躾が必要なのはルルでしょ!」と止まりそうもない言葉を紡ぎ、僕はソレを苦笑いしながら聞いていた。二人とも譲らないから代わりに僕が謝っているんじゃないか。 多分、二人はそんなこと気にも掛けていないに決まっている。



「あ、本題なんだけど。ユーフェミア様がスザクのこと呼んでるみたいだよ?スザクと連絡がつかないっていうから私に連絡してきたみたい。スザク、ケータイは?」
「いつもポケットの中に・・・アレ・・・ない」
「ルル!スザクのカバン投げて!」
「はあ?何故オレが」
「いいから、早く!スザクの騎士としての命が掛かってるの!」



文句を言いながらも僕のカバンを持つと投げるのを諦めたのかゆっくりと歩いてきて無言で差し出した。カバンを持った瞬間ルルーシュの眉間にシワが寄った。多分予想外の重さだったのだろう。 教科書類を一切置いていかないから僕のカバンの中は1日の授業道具がビッシリだ。何度かルルーシュのカバンを持ったことがあるけれど、いつも軽くてこっちが驚いた。 一体何が入っているのか。いや、一体何が入っていないのか。

とりあえず、お礼を言って受け取ると「スザクは真面目過ぎるんだ。スザクの彼女がというのが理解できない」とタメ息交じりに言って自分の席に戻って行った。 「自分、彼女いないからひがんでるだけだよ、きっと」と少し笑いながらも「ほら、ケータイ!」と僕を急かす。



「あ、光ってる」
「姫様からの着信でしょ?」
「うん。ほぼユフィからだ」
「ほぼ?」
「5件着信のうち、4件ユフィ。1件は特派からだ」
「あーあ、姫様待たせちゃいけないのよ?」
「行ってくる・・・ッ!」
「校門にセシルさんたちがいるはず。呼んでおいてあげたよー」
「ありがとう!」



自慢の脚力を活かして校門へ急いだ。本当に僕の騎士としての命が掛かっているかもしれない。4件も着信を残しておくなんて・・・何か事件でもあったのだろうか。 でも、ソレなら僕だけじゃなくラウンズのも呼び出されるはずだ。じゃあ、ユフィに何か・・・。これだったら、学校になんか行っている場合じゃないと言われるのも仕方のないこと。



「スザクくんッ!」
「すみません、セシルさん!」



学校に行くことを許されなくなったらに怒られるだろうな・・・と心の中で苦笑いをして、少しの覚悟を決めた。





僕が僕であるために





スザクはまだ軍の方へと駆り出された。今日は朝からあっちに行っていたらしく学校ヘは遅刻してきた。そして、放課後はまだお仕事。皇族の専任騎士をやっていればそれだけ忙しいに決まっている。 学校に来れているのが普通じゃないのだ。ユーフェミア様にはとても感謝している。スザクだけじゃなくユーフェミア様とは全く関係ない私まで学校へ通わせてくれている。 でも、もし、スザクが学校を辞めるのならば私も辞める。スザクのいない学校生活に未練などあまりない。私にとっての学校はソノ程度の価値でしかなかった。ユーフェミア様の意図と私の意図は全く違う。 ソコはとても・・・申し訳なく思っている。

私には今日はお仕事がないらしい。昨日呼び出されただけだった。正直、私じゃなくてもいいんじゃないかと思うような任務だった。文句も言わず、カンペキにこなした私を誰か褒めてほしい!



「はーあ」



スザクの背中を見送った後、1つ大きなため息をついた。いろいろと疲れた。疲れてなんかいないと周りに言い張っていたけれど結構限界がきているらしい。 自分の体調も把握できていないなんてラウンズ以前に人間としてダメだろう。1人きりになると何故か涙が出てきて、ソノ場にしゃがみこんだ。自分の髪をくしゃくしゃにするように抱いて。

ここは誰が通るかもわからない廊下だということも忘れ、声を押し殺して泣いていた。泣くという言葉程涙は出ていないかもしれない。すぐ傍には生徒会室があっていつソコから誰かが出てきてもおかしくはなかった。

?」と声を掛けられて肩をビクッと大きく揺らすほど、驚いてしまったのは、ソノ声の主が生徒会室にいるはずのミレイ会長だったからだ。生徒会室のドアが開く音など聞いていない。 スザクを呼んだときは確かに生徒会室にいたはずなのに。

もう遅いとわかりながらも涙を拭って立ち上がる。スカートをパンパンと叩き、ごみを落とすフリをして時間を稼ぎつつ、呼吸を整える。それでも会長の名を呼ぶ声は元には戻らずに、少し鼻にかかった声が出た。



「どうしたんですか、会長」
の方でしょ、どうしたのなんて!スザクになにかされたの!?」
「いや、ちがッ・・・!大丈夫、ですから」
「なにが大丈夫よ。スザクは?一緒だったでしょ?」



「彼女がこんな状態なのにどこかに行っちゃうような男じゃないわ」と力説しながら周りをキョロキョロと見回すも本人はいるはずもない。私がしっかりと特派まで呼んで送り出したのだから。

「強いって思っててもは女の子なの」手を腰に当ててそう言われてしまうと「少しは鍛えてあると思うんで大丈夫です」なんて言えなくなってしまう。私の心の中でも読んだのかと驚いた。



「スザクは軍の方に、行きました」
「本物のお姫様を守れなくてなにが騎士よ。ね?」
「本物の姫はユーフェミア様だから。スザクは正しいんですよ」
「なに言ってんだか。彼氏のお姫様は彼女って決まってるの!軍として考えてはいけません」



ハンカチで涙を拭ってくれた会長は「よしッ」となにかを決めたような一声を上げてニッと笑った。腕を組んで私の前に立つ会長は学校行事の前に見せる笑顔とよく似ている笑顔をしている。 ケータイを取り出してどこかへ連絡を取るらしい。やや間があって向こうの誰か知らない人が出ると会長が「もしもし」と告げた。



「スザク?今大丈夫かしら?」
「え!?」



会長の声で紡がれた名前は騎士としての命が掛かっている彼の名。大丈夫じゃないよ!と私が心の中で言っても本人が「大丈夫ですけど」とでも返したのだろう。会長はそのまま続けた。



「うちの姫が今大変な状態なの」
『え?』
「スザクの姫が大変な状態なのよ」
「会長ッ!大丈夫ですから・・・ッ!スザクは今騎士として危険な」
がッ!?』



ケータイを耳にあてていない私にまで聞こえる程の大きな声は心配した声音というよりも驚きの方に近かった。ケータイを少し遠ざけて顔をしかめていた会長と目が合うと直ぐににっこり笑ってウインクまでしてくる。



「スザクなにしたの?泣いてるじゃない」
『なにもしてません!・・・と代わってもらえますか?』
「しゃべれないからイヤだって」
『なにがあったんですか!?』
「私が聞きたいわ!」



何故か逆ギレしたようにそう告げて、会長はパタンッと勢い良くケータイを閉じた。多分スザクはなにを見つめるわけでもなく宙を見つめ、プー・・・プー・・・という機械音だけを聞いているのだろう。 ユーフェミア様が心配して声を掛けて下さっていても、まるで聞こえていない。簡単に想像できてしまう。自意識過剰かもしれないけどソレくらい愛されていると感じるし、ソレ以上に私はスザクが大切だ。

ポケットから僅かな振動が伝わる。ケータイが着信を伝えている。取り出してみると「スザク」の文字が浮かんでいて、会長を見ると「出てもいいのよ?」と目線で投げかけられている、気がした。 私が想像してた以上にスザクは瞬時に行動できたようだ。



「もしもし」
?ごめんね、電話して。さっき会長に聞いたら断られたから出てもらえないと思ってたんだけど』
「アレは会長が勝手に・・・」
なにがあった?僕がいなくなってからなにかされた?誰だ?』



段々とスザクの声が恐く鋭くなっていくのがわかる。いつものスザクの優しい声ではない。

特定の人なんて存在せず、ただ感情の制御が出来なくなっただけなのだ。ソレだけのことなのに、こんなにも心配してくれる人がいるというのは幸せなことだと思う。 スザクは心配を通り越して、怒りにまで行ってしまっているみたいだが。



「誰でもないの。ありがと、スザク」



目の前にスザクはいないのに微笑んでお礼の言葉を述べると先に反応したのは目の前にいる会長だった。ふうと1つ息をついて続けた。



「やっと笑ったわねー」
「え?」
「やっぱスザクじゃないとダメかー。なんか悔しいわね」
?え、あ、ランスロット行けますか?はい、お願いします。もしもし、?今からランスロットでそっちに行くから。このままじゃ仕事なんて手につかない』
「え、え?」
『待ってて』



プー・・・プー・・・という機械音が聞こえる。ランスロットでくる?アッシュフォード学園へ? 不思議そうな顔をしている会長にソノ事を伝えるとまたにっこり笑って「予想以上の成功のようね」とだけ言い残し、生徒会室に入って行った。

ランスロットならここまで5分と掛からないだろう。騎士としての命はどうなったのか。こっちに戻ってくる場合ではないと言い張る自分とスザクが私を優先してくれたと喜んでいる自分がいる。 どちらが本当の自分なのかはわからない。多分、どちらも本当の自分なのだ。

窓の外を見上げると白い騎士が翼を広げて凄いスピードでこちらに向かっているのが既に確認できるところまで来ていた。そんなところで自慢のスペックを披露しなくても・・・と笑うも窓を開けて、手を振った。





必要不可欠なもの
 (ッ!)(スザク・・・戻ってきていいの?)(どうしても抱き締めたかったんだ)





090208 家長碧華
 タイトル提供:red lie