の部屋に2人でテーブルをはさんで向かい合って座っていたとき、ふとが尋ねてきた。2人きりのときに、改まった態度を取るとは怒る。というか拗ねる。だが、他に1人でも(例えをよく知ってるユーフェミア様やコーネリア様でも)誰かがいれば僕たちは皇女と騎士の態度をして言葉も丁寧なものを使う。「切り替え難しいよね。ワガママ言ってごめんね」と苦笑するは僕の大切な愛しい人で、ある意味(いや、どちらの意味にしたって)本当のお姫様なのだ。だから僕はソノ難しい切り替えさえも嬉しく思い、喜んでのワガママに付き合っている。僕はワガママなんて思ってはいないのだけれど。



「ねえ、スザク…?」
「ん?なに?」
「皇女が騎士に恋しちゃ、おかしいのかな?」
「え?」



僕たちはこの関係を隠している。「秘密にして」と言われたわけではないが、少なくとも僕は誰にも告げてはいない。ロイドさんやセシルさん、ルルーシュにすら言っていなかった。ロイドさんとセシルさんの2人には僕の態度や表情でバレてしまっているかもしれないけれど…。

騎士として主を困らせてはならない。が誰に告げようと僕は構わないがも誰にも告げてはいないようで、ソノ類についての質問を受けたことはなかった。それに、誰かが知っていれば噂となり瞬く間に広がっていくだろう。ソノ噂すら聞こえてこないということは、本当に誰も知らないということだ。

逆ににこんな質問をされるとは思ってもみなくて、僕は面を食らい少しの間の後に否定の言葉を述べた。これは僕の、一個人の意見でしかない、という前提で。僕の答えを聞いたは口元をゆるめて、嬉しそうに微笑んだ。「スザクならそう言ってくれると思ってた」と加えて。



「誰かに言われた?」
「いや…言われたっていうか…。直接ではないんだけど、間接的に?」
「誰だい?」
「いや、大丈夫だから。スザクがそう想ってくれてるなら大丈夫。だから、そんな目しないで、スザク」



はよく、人の目のことを言う。僕だけにではなく色んな人の目のことも。真っ直ぐに僕の瞳を覗き込んできて、まるで心まで見透かされているような気分になる。人によってはイヤだと思う人もいるかもしれないが、僕は不思議と安心感すら覚えていた。ソレはの能力と呼んでもいいのではないだろうか。実際、僕に関していえば見透かされている部分が多々あるのだから。

自分が一体どんな目をしているかなんて全くわからないが、が僕の目を唯一恐がる「とき」は知っている。ソレは、僕がに被害を及ぼすヤツを見て(考えて)いるときだ。そんなときは、はいつも「スザク…?」と消え入りそうな小さな声で僕の名を紡ぐ。にしゃべりかけているときはソノ目はしていないらしく、無意識のうちに切り替えをしているみたいだ。本当に自分ではわからない。



「なにかあったら僕にすぐ伝えて。大体、側にいるだろうけど、そういうことって僕がいないときに言われるんだろ?」
「…よくわかるね」
「なんとなく誰かはわかる気がするけど…違ったら失礼だから、怪しむことはしないようにするよ。ただ、ソノ場を僕が見たら、許しはしないけどね」



そう優しく微笑ん(だつもり)で、立ち上がる。向かい合わせで座るよりも隣にを感じたくなった。少しの間でもいいから自分の腕の中にこの大切な人を閉じ込めておきたい、そう強く思ったのだ。



「隣、いいかな?」
「うん、いいよ」



が横にずれて空いたスペースに座り、急に隣にきた僕を不思議そうな目で見てくるを包み込んだ。小柄で華奢なはすっぽりとおさまり、思いと感じないであろう程度に僕の体を預けた。



「騎士は主の剣となり盾となる。そう誓ったよね?」
「うん」
「ソレには忠誠心が本当に大事だと思う。でも、簡単に忠誠心だなんて言うけれど、専任騎士になって1,2年せ本当の忠誠心なんて得られないと思うんだ。ハッキリ言ってしまって申し訳ないんだけど…」
「スザクがそうなの?スザクは私の騎士になってまだ半年程度だし…」



今度は淋しそうな表情で俯いた。コロコロと表情がよく変わる姫も珍しい。そろそろと僕の背中に回してきた両の手がキュッと服を握りしめた。



「いや、僕の場合は…多分ダールトン将軍のような歴きとした軍人に知られたら怒られるだろうけど、がすきだから、単純に守りたいって思うんだ。騎士として守りたいとも思ってはいるけれど、ソレ以前に1人の男としてを守りたいっていう気持ちが強い。…だから、僕はある意味で、騎士失格かもしれない。ごめん」



少しの間、そのままの状態で沈黙が続いた。今の言葉で呆れたのだろうか。本当に騎士失格を言い渡されるかもしれない…。が口を開くまで頭の中で余計なことが次々と浮かび上がり、不安な気持ちになってくる。

そんなことは今更だ。いつかは伝えなくてはと思っていたこと。それに不安になれるような身分ですらないはずだ。の言葉が僕にとっては絶対なのだから。

顔を上げたの表情は少し怒っているようにも見えた。怒らせるようなこと…か。僕のさっきの言葉は裏切りとも取れるかもしれない。なら怒りも感じるだろう。それに僕は自ら謝っているのだ。許しを求めている。が怒る理由もわかるというものだ。

いつも優しく微笑んでいる目元が少しの鋭さを備えていた。彼女もブリタニアの一皇女。威厳さは持っている。それでも恐くも何ともなく不謹慎にも、ちょっと可愛いと思ってしまっている僕はどうしたらいいのだろうか。



「謝りの言葉なんか聞きたくない」
「…ごめん」
「スザクのさっきの言葉に嘘はないんだよね?」
「うん。全部、僕の本心だ」
「なら、なんで謝る必要があるの?」
「なんで…?」



と僕との間に少しの距離が開くとの表情が和らいだ。いつもの僕のすきな癒しのある笑顔だ。任務を終え、が僕を出迎えてくれるときの笑顔はイチバンの癒しになっている。姫が騎士を出迎える。傍から見ればソレは逆。ありえない光景だが、僕たちにはコレが普通だった。もちろん、僕がを出迎え、エスコートすることも忘れてはいない。



「誰よりも騎士に愛されてる姫なんて素敵じゃない」



ギュッと首に抱きついてきたを抱き留めると、頬に柔らかな感触があった。「へへッ」と嬉しそうに、照れたように笑うにつられて僕も笑う。



「頬じゃなくて、こっちが良かったな」



の細い指を僕の唇に触れさせると、今度は照れ隠しのように「キスは騎士からするものですッ!」と言って視線を下へずらした。そう言われて黙ったままでいられる程、僕は出来た騎士ではない。そこはとしての彼氏の僕が出て来てしまうのだ。頬に手を掛け、上を向かせれば視線が重なり、ゆっくりと目を閉じたにただ、愛おしさを感じて唇を重ねた。





美しいと思うから守ることを誓う
 (出動前にするキスは、誓いのキスだ)





090322 家長碧華
 タイトル提供:as far as I know