ときどきがすごく甘えてくることがある。ソレは教室だろうが、ラウンズとして仕事をしていようが構わず僕の名前を呼び、指を絡ませてきたり、後ろから抱き付いてきたかと思えば抱きしめてと要求してきたり、キスしてと可愛らしくおねだりしてきたりする(キスは流石に僕と2人きりのときだけだけど)普段、僕からそういうことを求めると恥じらうくせにからのときは何故か妙に積極的で僕の方が照れてしまうことがある。

今日は僕もも学校を休んで仕事を優先させていた。させていたのだが、ソノ仕事が思いの外手応えもなく午前中で片付けてしまった。に至っては午前中一杯も使わなかったらしい。手際の良さにはいつも感心してしまう。



「スザクー、ヒマだね」
「平和ってことだからいいことだよ」
「こんなんだったら、スザクと一緒に学校に行けばよかったなぁ」



やることのなくなった僕たちは気晴らしにと外に出てみることにした。離宮の庭で足を伸ばすのひざを枕にして仰向けに横になる。今の僕の視界は「ね?スザクも学校行きたいでしょ?」と小首を傾げて僕を覗き込むとそのバックには真っ青な空が占領していて、そうだねと返事をしつつの頬に手を伸ばすとニッと笑って僕の髪に触れてくる。僕のふわふわな髪がすきだと前に言っていた。僕らしい、と。「このヘアスタイルも色も変えちゃダメだよッ!」と言い付けられた覚えもある。僕の外見が変わったときはと別れでもしたときだろう。なら、僕の外見が変わることは一生ない。



「スザクがいない学校はつまらないから、スザクが行かないなら私も行かない。この前そう決めたの」
「ははっ、大袈裟だなは。には友達がたくさんいるじゃないか」
「スザクと一緒にいたいんだもん」



少し拗ねたように頬を膨らまし、僕の髪をいじっている手を止めた。このは甘えたがっているだ。上半身を起こしての前に向かい合うように座り直すと予想通り抱き付いてきた。こうやって甘えてくるときは何かあったときで、僕からたずねないとは何も言わない。「相談するのが苦手なの」と言って弱々しく笑ったを忘れられなかった。苦手なんじゃない。できないんだ。いつもは相談される側。「は相談するようなことないでしょ?」という周りの目に囲まれてしまっている。

だから、僕の前では素でいてくれているのが嬉しいし、力になりたい。頼られたい。僕の胸に顔を押し付けて、言葉が聞き取りにくくなったけど、が震えてるんじゃないかと思って強く抱きしめる。こんな華奢な身体でナイトメアを駆るは強いが、脆いのだ。ソレは僕だけに見せる脆さ。



「この間スザクがいないときスゴい淋しかったんだから。早退するッ!って言ったらルルに止められて、ソレをアーニャに記録されて、ジノが休み時間の度に会いにきてくれたんだよ。嬉しいんだけど、やっぱりスザクじゃないと意味ないんだもん。スザクの代わりなんて…ムリだよ。だから、スザクに会いたくて、会いたくて、お仕事ないのに行ったのです」
「ソレであんなに急いで来たんだ?が来るとは思ってなかったからびっくりしたんだよ」



あの日はは仕事ではない日で、朝から学生として学校へ行き、僕はソノ真逆、朝からラウンズとして仕事をしていたんだ。今思えば、別行動を取ったのは初めてだった。いつも僕たちは一緒に学校へ行くか、大抵ラウンズとして与えられる仕事は似たようなものだから一緒に仕事をするかのどちらかだった。

が言う「この間」は僕の手際の悪さのせいだった。だから僕だけ仕事が残ってしまって、1人で朝からソレを片付けるはめになったのだ。

それにもう1つ言わせてもらえれば、心配事が何もなかった。イレヴンだからといってがイジめられることはなかったし、何よりもには友達がたくさんいた。僕なんかよりもアッシュフォード学園に溶け込んでいて、とてもブリタニアのために戦うラウンズとは思えない姿を見せていた。ただの女子高生としか思えなかった。年齢的には【ただの女子高生】の方が普通なのだが。そうあって欲しいという僕の希望が含まれていたから尚更強く、思ったのかもしれない。許されることであれば僕はを今すぐにでもラウンズから降ろして欲しかったし、危険な目に合う軍から抜けて欲しいと思っている。の意志を無理矢理曲げることなんてできない(の強い意志を知っている)から、を今の状態から外すことは難しかった。

そして、僕はが口を開く前に言葉を繋げた。



「僕だってと一緒にいたいさ。ジノと喋ってほしくないときもあるし、アーニャとだってイヤなときが…ある…」



今まで僕の胸に顔を押し当てていて表情がわからないから自分の奥深くに隠していた気持ちを紡いだのに、いつの間にか上目遣いで僕を見ている。そんなを見てしまて、ただでさえ恥ずかしいことを言っているのに、更に恥ずかしくなった。口が堅くなり、次の言葉を紡ぎたくない。醜い僕の気持ちを。



「ソレって嫉妬…?」
「…世間一般では、そう呼んでるんじゃないかな」
「スザクが嫉妬?ははッ、嬉し」
「だから言いたくなかったんだ…」



ニッと子供のように無邪気に笑い、「よっと」小さく掛け声を1つして、立ち上がった。座ったままの僕はすぐ側に立つを見上げる形になる。

今、気付いたけれどは子供のような表情や仕草が多い気がする。ソレは【子供っぽい】という訳ではない。どう言葉にしたらいいのかわからないが、僕はのそういう【素直さ】が、すきだ。軍人には珍しいタイプではないだろうか。人として大切なことをは失くしてはいない証拠だと思う。



「さぁ、休憩終了!戻ろう?」
「今日は本当に平和だね。出動命令なんて出そうもない」
「平和がイチバンなんだからってさっきスザクが言ったでしょ。でも、私たちラウンズの存在が必要なくなれば、どんな世界になるんだろ…」



なによりは人々の、世界が平和になることを誰よりも望んでいるに違いない。少なくとも僕は以上に他人を想っている人を知らない。そして、ソレを実行している人も知らない。有言実行を軽々とやり遂げているのだ。時々自分と比べて、自分はなんのために軍人にいるのかを見失ってしまいそうになる程に。

ただ、1つ思うことがある。はもっと自分のために使う心を持っていてもいいんじゃないかと。「誰より、何より、スザクが愛しいって思ってるこの心さえあれば充分」と微笑んだ。ソノ微笑みはキレイでどこか切なくて、少しだけ胸の奥が痛んだのを覚えている。

でも、さっきの問いには答えられると思う。僕たちナイト オブ ラウンズの存在がいらなくなれば僕たちは自由になれるだろう。今でも自由がないわけではないが、【普通の】男女になれるわけだ。

世界の平和なんて別に気にしなくたっていい。すでにソノ世界は平和なのだろうから。皇帝のために戦う必要など、どこにもない。



「僕はと居れればいいよ。ソレ以上は何も望まない」



そう、僕はのように他人のために使う心など、殆んど持ってはいない。自分のためだけに使ってしまっている。いくら世界が戦争で溢れていようが、はっきり言ってしまえばどうでもいいことなのだ。がいる。それだけが僕の世界の基準。結局は僕の欲望だ。

遠くの空が赤く染まり出してきた。今日は本当に静かだからの部屋に行ってもいいかな?いや、僕の部屋に招こうか。そう思い、立ち上がっての様子を見ると、やっぱり嬉しそうに笑っていた。



「私もスザクが居れば、幸せだな」



そう言われて黙っていられる男などどこにいる。部屋に戻るまでにもう一度抱きしめて、口づけをすれば、照れたように笑って背中にの手が回ってくる。

これから、少しずつでいいからが自分の心を自分のためだけに使いたいと思う何かが増えますように。僕の心に1つ刻み込んだソノ願いは、いつか僕自身が叶えてみせると誓い、の肩に顔を埋めた。





生きるのをやめられずにいる
 (ねえ、。僕の部屋、来ない?)(へへッ、行くッ)





090426 家長碧華
 タイトル提供:as far as I know