「スザクッ!」
様!?」



特派の部屋に勢いよく飛び込んできたのは僕の主のだった。には秘密裏に動いていたはずだったのだが、どうやら失敗のようだ。どういう経緯での耳に入ったのだろう。まぁ、もうそんなことはどうでもいいか。それに、今までこのことをに秘密にしていたという罪悪感から少し、ほんの少しだけ解放された気がする。だが、本番はこれからだった。

酷く焦ったように肩で息をしているあたり走ってきたらしい。ドレスを着ているのもお構いなしに走ることに関してはの得意技かもしれない。ただ、僕のところへ急いで駆けつけてくれたということが嬉しかった。



「スザク、この出動は私が認めません。誰ですか、このような無謀な出動命令を出したのは!スザクは私の騎士ですよ!?この出動はまるで…」



そこでは口をつぐんだ。両の手を握りしめて細い肩が震えている。視界に入っているロイドさんが僕の方を見て、こんなときでもいつもの笑顔を浮かべていた。

つい先程、ロイドさんに特派としての任務があると召集されてここへ来たのだ。「様にはなんとか言って抜けてきてね〜」よく考えなくてもソレは色々とムリな命令だと思う。僕はの騎士なのに、なんとか言って抜けてこいと上司は言うのだ。ロイドさんのソノ一言で、とうとう動くのかと一つ息をのみ込んだ。

任務の内容は至って簡単だった。相手陣内にランスロット一騎で挑み、相手をかく乱させ、ソノ隙にアジトを叩く。の専任騎士となり、前線に立つことを許されたランスロットの強さは周りも充分理解していたし、レジスタンスにとっては脅威に違いない。だけど、現れたのはランスロット一騎だけ。五十騎対一騎であれば勝てると思い、全てのナイトメアの照準がランスロットに定まる。つまりは僕は囮というわけだ。ソレ自体は別に危険な任務ではない。過去にも何度か行ったことがあるし、スペックが最高なランスロットだからこそ、なせることだと光栄に思ってもいた。だが、今回は違った。初めてが僕の任務を止めに入る程だ。(止められると誰もがわかっていたから秘密裏に動いていたわけだけど…)誰がどう見ても相手の数が多すぎる。いくらランスロットでも五十のナイトメアの中に飛び込んで生きて帰ってこれる可能性は極めて低かった。ソレは自分自身がイチバンわかっている。だが、僕がやるしかない理由があったのだ。

人前では騎士と皇女を崩すことのなかったが僕の首に両手を回して抱きついてきた。びっくりした僕は抱きしめてもいいのだろうかと焦り、ただされるままの状態で固まっていて、ボソッと呟いた一言を聞き逃すところだった。



「死んじゃ、ダメだよ」
「…わかった。生きてまたを抱きしめるって約束するよ」



たまらず軽くを抱きしめると微かに首が縦に動き、ゆっくりと両の腕が離れていく。キスをしたい衝動をなんとか抑え、最後だけでもと騎士として1つ敬礼をしてランスロットへ走り出した。これが最後の別れなどにはさせない。絶対に。

コレは僕がやらなければならない任務だ。きちんと言えば、成功させないと何も意味はない。やはり僕は生きていなければならないのだ。



とお前が主と騎士以上の関係だと冷やかにウワサが流れているそうだな。ナンバーズのお前とブリタニアの皇女である。お前は男だ。そんなウワサは気にしないだろうが、はそうはいかない。たとえ…お前のことがすきだとしても周りの目がソレを許さないのだ。特にはエリアに赴くことも少なく本国ばかり。そのようなことを忌み嫌う皇族が周りにはたくさんいるのを枢木も知っているだろう?自分の存在と力を認めさせ、周りの嫌味を断ち切るためにも私は枢木に出動してもらいたい。ただし、死ぬなよ?死なれたら私がに嫌われてしまう」



そう言って普段見せることのない苦笑いをしたのは神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニア。その表情は目を閉じると瞼の裏に映し出されてくる。ほぼエリア11にいるコーネリア皇女殿下からのことを言われるとは思いもしなかった。僕は常にの側にいるのだ。誰よりもを見て、感じて、知っているつもりだった。つもりでしかなかったのか。そんなことはないと思いたい。

そして、コーネリア皇女殿下は僕たちの関係も知っているのだろう。から聞いたと推測できる内容だ。



「僕と様の関係をご存じなのですね?」
「なにを言ってる。そんなもの誰もが知っているだろう?皇女と騎士。そうだろう、枢木?」



艶やかにコーネリア皇女殿下は微笑んだ。確かに何かの意味を込めて。ソノ意味が何なのかは言葉にしない限り本人にしかわからないが、僕はコーネリア皇女殿下がコーネリア皇女殿下であって良かったと、今まででイチバンの誠心誠意を込めて一礼した。

この任務が終わったら全てを明かしてみようか。もちろん、の許可を得てからだ。そうしたらにとっての周りの視線が変わるかもしれない。いや、何かしら必ず変化はする。たとえ良い方に向かなくても全てを明かしてみるのは、今まで閉ざしていた僕たちにとって新しい道には違いない。

それでも、が嫌だと感じるモノがあるのなら、ソレは僕が取り除いてあげよう。

だって、僕はの騎士であり、恋人なのだから。





愛おしく思う気持ちのままに、あなたを愛せますように
 (だから今は何も言わずにランスロットを駆る僕を許して欲しい)





090512 家長碧華
 タイトル提供:as far as I know