「、行くぞ」
今日は月曜日。部活が唯一休みの日だ。
帰りのHRが終わり、エナメルバッグを肩に掛け立ち上がると同時に隣の席のにそう言うと、
周りの友達に挨拶をしていたが笑顔でこちらを向いた。
今日は先週から行きたがっていたジェラート屋に行く日で、は朝から上機嫌だった。
新しく駅前にジェラート屋が出来ただの、新しいプリクラ機が入っただの、
あそこのパンケーキが美味しいだのと女子の間では色々な情報が飛び交っていて、
男子バレーボール部のマネージャーをしているがその話を聞いている時に少し羨ましそうな顔をしているのを知っている。
だから、出来るだけオフの月曜日にはの行きたい所に連れて行ってやりたいのだが、
毎週連れて行ける訳でもない。
ちなみに先週は及川の邪魔があり、3人でスポーツ用品店へ行くはめになった。
の好きなソフトクリームを及川に奢らせ、美味しそうに食べていたし、
それはそれで楽しそうにしていたから、まぁ、良かったのかもしれない。
「行こう、行こう!早く行かないと混んじゃうよ!」
自分のエナメルバッグを背負い、俺の手を引いて廊下まで引っ張って行く。
のんびり友達と挨拶していたのは自分の方だろう。
の小さな身体には不釣り合いな大きなエナメルバッグが腰に当たって、歩く度に重たそうに揺れている。
引っ張られたままの距離を詰めるように横に並び、掴まれたままの手首からの手をほどくと、その小さな手に自分の手を絡ませる。
教室から自転車置き場までの短い距離を手を繋いで歩くのが、段々と当たり前になりつつある。
「よっしゃ、行くぞ。落ちんなよ」
「はーい。お願いしまーす」
を後ろに乗せて、駅前を目指しペダルを漕ぐ。
学校から駅までせいぜい15分。あっという間だ。
店の場所をにナビされながら進むと、目的の店が見えた。
もう既に小さな行列が出来ている。殆どが自分たちと同じ制服を着ているが、知り合いの顔はないようだ。
近くに自転車を停めて、最後尾に並んだ。
「一、何食べる?ダブルにする?」
「んー…何にするかな」
行列の先に見えるガラスケースの中に、8種類のジェラートが並んでいて、
背の大きくないにはまだ見えていないようで、どうにかして見ようと右に左に前の様子を窺っている。
少し進むとにも見え、俺の制服を引っ張りながら興奮した様子だ。
「私はねーピスタチオとクレームブリュレかな。あーでも、一番人気のミルクは外せないかも。えーどうしよう悩む」
「じゃー俺、ティラミス食いてぇから、ティラミスとミルクにする。はピスタチオとクレームブリュレでいいだろ?」
「良いの!?ありがとう!」
いよいよ俺たちの番となり、ティラミスとミルク、ピスタチオとクレームブリュレを頼む。
俺が店員にオーダーしている間に「400円、400円」とブツブツ言いながらエナメルバッグをゴソゴソとし、財布を探しているのだろう。
それを制して、自分の財布から千円札を店員に渡す。
「これぐらいかっこつけさせろ」
「あ、ありがと」
おつりを受け取ると、すぐにジェラートは出来、2つ受け取りの分を手渡した。
イートインスペースがあり、ベンチに座って一口食べる。コーヒーの苦みが程良く美味い。
「美味しー!一、ピスタチオ美味しいよ。はい」
はい、と言って差し出されるスプーン。その上にはピスタチオのジェラートが乗っている。
あ、と口を開ければ、口の中へ運んでくれた。ん、これも美味い。
「ほら、ミルク。食いたかったんだろ?」
「うん、ありがとー」
スプーンにミルクをたっぷりすくって差し出すと、小さな口を大きく広げ、ぱくっとかみ付いてきた。餌づけでもしている気分だ。
美味しい、美味しいと何度も言いながら食べているを見ていると、何だか平和過ぎて笑えてくる。
それからはお互いにジェラートをつつきながら、あっという間に食べ終えた。
「この後、行きたいとこあるか?せっかく、駅前まで来たんだし」
「んー…他にね…」
ジェラート以外の事は考えていなかったらしい。
時間だってまだ16時半を少し過ぎた頃。いつもの帰宅時間を考えれば、もの凄く早い時間だ。
しばらく考えていただったが、帰ろうと言い出した。
「週一のオフなんだしさ、帰ろう?」
「いいのか?週一のオフなんだぞ?」
「いいの。行きたいとこ見つけたら、また言うから。今日は帰って疲労回復」
が言っている「週一のオフ」と俺の言っている「週一のオフ」の意味合いが違っている。
こんな時ぐらい自分を優先させてもいいだろうに、俺の体調や疲労を優先させてしまう。
周りから言わせれば出来た彼女、なのかもしれないが、俺としてはもっと我が侭を言って欲しいし、自分を優先させて欲しい。
再び自転車に跨ると、家への道を漕いで行く。
「一、あたしの家、こっちじゃないよ?」
「俺ん家にいろよ。疲労回復っていうならとのんびりしてぇ。帰りは送ってやるから心配すんな」
「そこは心配してないよ」
俺の腰に回している腕がきゅっとしまった。が照れているときに必ずやる行動だ。
緩んでしまいそうになる頬をなんとか留め、スピードを1つ上げて家を目指した。
君があまりに優しいから、
150911 家長碧華
タイトル提供:MISCHIEVOUS