今日から5日間の連休が始まる。俺たちバレー部はもちろん部活だ。
3日間の合宿を学校内の宿舎でやることになり、今は午前練習の真っ最中だ。
「次、サーブ10本で午前ラストにするぞー」
コーチの指示通り、それぞれ近くにあったボールを拾い上げてサーブラインまで下がる。
その時、監督に駆け寄るの姿が目に入った。
遠くに居たから何を告げたのかはわからないが、監督が頷くと、は軽く礼をして体育館から出て行った。
「ちゃん、どこ行ったの?」
及川もそれを見ていたらしく、俺に近付いてきて訪ねてきた。
「さぁ?すぐ戻ってくるだろ」
ボールを何度かバウンドさせて、手に納める。今は10本サーブを決めることだ。
10本のサーブは難なく決まって、タオルで汗を拭いて水分補給をしていても、は戻って来なかった。トイレ、とかではなさそうだ。
やがて、部員全員がサーブを10本決めると昼飯になり、それぞれ持参した弁当を取りに宿舎に戻り食堂に再び集まるのだ。
合宿中、食べる場所は宿舎にある、食堂だけと決められている。
移動中、周りに目を向けて見てもの姿は見つけられなかった。
「ちゃん、具合悪くなったかな?今日暑いし」
「んー・・・そんな風には見えなかったけどな。監督に聞いてみるわ」
監督も食堂に来るはずだ。とりあえず、食堂を目指し、及川と並んで歩く。
食堂につくとそこには監督はおらず、逆に探していた人物がエプロンをして満面の笑みで立っていた。
「二人ともお疲れ!おにぎり握ったんだけどいる?」
大きな皿に大量のおにぎりが並でいて、やっと納得した。これを作っていたから、姿が見えなかったのか。
2皿分、ざっと数えて40個〜50個ほどあったのだろう。既に半分は無くなっていた。
「午前中の練習が思いのほかハードだったから、みんなお弁当だけじゃ足りないんじゃないかと思って。
前にここで合宿したとき購買やってなくて皆嘆いてたでしょ?」
「マジ、助かる。俺2つもらってく。サンキュな」
「俺も1つ食べよー。ちゃんが握ったおにぎり食べないわけないじゃん」
「お前は食わなくていい。お前にのおにぎりはもったいない」
「もったいない!?なんで!?」
ギャーギャーうるさい及川の相手をしていると、小皿に取り分けてくれたおにぎりが差し出される。
優しいは及川にも取り分けてくれている。
「はい、どうぞ」
「サンキュ。も飯食おうぜ」
「うん。今、お弁当持って来るよ」
「急がなくていいぞ」
小走りで食堂を出て行ってすぐに「おにぎり置いてあるから、お弁当足りなかったら食べてね」と大きな声が聞こえてきた。
「ハイっ!アザッス!」と更に大きな声で返事が返ってきた。金田一だ。
すぐに金田一と国見が入ってきて、金田一だけおにぎりを持って行った。
「ちゃん、出来る子だねー。本当気が利くね」
「まぁな」
「何それ、なんかムカつく!」
弁当の包みを広げて食べ始めようかと思ったが、を待つことにした。
正面に座った及川は既に食べ始めていて、箸を持たない俺を不思議そうな顔で見てくる。
「あいつ、すぐ来るべ」
そう言い終わらないうちにが食堂に飛び込んできた。
「やっぱり、食べてない!」
「急がなくていいって言ったろ」
「絶対に一は食べないで待っててくれると思って、急いだ」
俺の隣に座り、手早く包みを広げると、小さな弁当が出てきた。毎日思うけど、これしか食ってないから細いんじゃねぇか。
でも、食う時は普通に食うんだよな。小食って訳でもないし。休み時間とかも結構お菓子食ってるしな。
「はい、一もいただきます」
「いただきます」
の握ってくれたおにぎりにかぶりつく。ん、美味い。
ちょうど良い大きさのおにぎりはあっという間になくなってしまった。
「おにぎり、美味い」
「良かった」
「及川さんもこれで午後からの練習も頑張れるよ」
「午後からの練習もハードなのかな?」
「午後からはゲーム形式って言ってたよ」
持ってきた弁当と残り1つのおにぎりもぺろっと食べ終え、時計を見ると午後練開始まであと20分もあった。
の弁当はまだ半分ほど、残っていた。
良く噛み、良く喋り、良く笑いで、中々箸が進まないのもいつものことだ。
が楽しそうにしてるんなら、まぁ、それでいいか。
好きにならない理由がない
151001 家長碧華
タイトル提供:てぃんがぁら