中学入学と同時にバレー部に入部した。バレー経験は無かったが、たまたまテレビで見たバレーが面白くやってみたいと思ったのだ。
運動神経が良くもなければ悪くもない私は他の新入部員と一緒に基礎連に励む毎日を送っていた。
毎日の部活は大変だったけれど、1年生は皆仲が良いし、2・3年生の先輩たちも優しく教えてくれた。
ドラマやマンガでよくある後輩いじめ等もなく、まだまだ上手にボールは扱えないけれど、それなりに楽しかった。
入学してから知ったのが、男子バレー部は強いということだ。
同じ体育館を半分にして、女子と男子と使っているが、男子の方から聞こえる先生の指示は女子のそれよりも強く、厳しかった。
「ねぇねぇ、。今日も及川先輩かっこいいね」
「うん。そうだね」
その強いバレー部のキャプテンが及川先輩で、1年生の女子の間ですぐに「3年生に凄いかっこいい先輩がいる」と噂が回っていた。
とは中学から友達になったのだが、同じクラスで同じバレー初心者ということですぐに仲良くなり、
初めのうちは一緒に基礎連をしていたものの、及川先輩が気になるようで仕方ないようだ。
「ねぇ、、私オーバー上手く出来ないんだけど・・・」
「待って。これから及川先輩、サーブ打つみたい!」
「もう、何しにここに来てるのー?」
何を言ってもダメだと思い、周りと少し距離を取ってオーバーハンドパスの練習をする。
自分でもどこに行くかわからないので、周りに迷惑を掛けないように広いスペースが欲しいのだ。
ボールに触れる度に、ポコンと変な音がする。先輩たちは何の音もせず、自分の真上に上がっている。
私も早くあんな風に自由に操ってみたい。その一心で、ひたすらオーバーハンドの練習をしていた。
「及川どこに打ってんだぁっ!」
「岩ちゃん、ごめーん」
変な音はするが、高く上がるようになってきた。そして、ボールを落とす回数も減ってきた。
この音がする限り、上手くなっている気はしないが、変な方向に飛んでいくことがなくなったことが嬉しかった。
ずっと上を向いていると首が痛くなってきた。でも、落とすまで続けてみよう。
今日一番の変な音が出た時だった。「危ねっ!」と聞こえた時、私は何かを踏んで体勢を崩してしまった。
ずっと上を見ていたせいでボールが転がってきたことに気付かなかったようだ。
突然すぎて声も出ず、ただ目を瞑って痛みを覚悟するも、背中に触れたのは体育館の床ではなく、誰かの腕だった。
目を開けると、男の人が私を支えてくれていた。
「大丈夫か?」
「・・・はい。大丈夫、です」
「良かった、間に合って。悪いな、男子が打ったボールが女子の方に行っちまって」
「あ、いえ。私、ずっと上を見ていたので、気付かなくて」
「岩ちゃん!ごめん、大丈夫!?」
及川先輩が走ってこちらにやってきた。私を支えてくれたのは岩ちゃんという人らしい。及川先輩とタメ口で喋っているから3年生だろう。
岩ちゃん先輩はゆっくりと私を座らせてくれた。
「謝る相手が違ぇだろ。俺に謝んな」
「知ってるよ!ごめんね、俺が打ったボールなんだ。怪我してない?」
「あ、はい、大丈夫です」
「良かったー。本当、ごめんね」
岩ちゃん先輩は私が使っていたボールを拾い、手渡してくれ、その近くに転がっていた北一男子バレー部と書かれたボールを掴むと戻って行った。
及川先輩はもう一度謝って岩ちゃん先輩を追って行き、並ぶと後頭部を叩かれて痛そうに擦っている。
その様子をボーッと眺めていると、が興奮気味に近付いてきた。
「、及川先輩と喋ったー!羨ましいー!」
「えぇ・・・そっちー?心配してくれないの?」
「ごめん、ごめん。でも、岩泉先輩が助けてくれたじゃん」
岩ちゃん先輩は岩泉先輩というのか。何でが知っているのかは謎だが、岩泉先輩覚えておこう。
受け取ったボールを見つめ、岩泉先輩、と心の中でもう一度復唱した。
きっとふつうだから大丈夫
151116 家長碧華
タイトル提供:Catch sight of