今年も12月半ばとなり、もうすぐクリスマス。
かなり前からショッピングモールはクリスマス仕様になっていて、クラスの中でもクリスマスの話題が増え、そわそわしている子ばかりな様だ。
バレー部はもちろんクリスマスも部活があり、毎年部活後に暇な人だけで集まる悲しい会が開かれている。
去年は徹を無視して一と二人きりで過ごしたが、今年はどうするのだろう。まだ一とクリスマスの話をしていないからわからない。
コートのボタンを閉め、マフラーを後ろでぎゅっと縛り完全防備で更衣室を出ると、少し行った先に一が立って待っていた。
「一、どしたの。部室に居てくれて良かったのに」
「部室にいたら及川がクリスマス、クリスマスってうるせぇから出てきた」
「今年もバレー部でクリスマス会やるのかな?」
「やるらしい。参加させたいってあいつ今年も騒いでる」
一の凄く嫌そうな顔に笑ってしまう。私を参加させたくないのかな?それとも単に徹がウザいと思ってる?こっちの可能性の方が高そうだ。
玄関で靴を履き替える。外の空気はとても冷たい。ガラス張りのドアを抜けると一が私の手を取ってポケットに入れてくれた。
その中で一の大きな手が私の手を包み込んでくれる。
「バレー部のクリスマス会に参加してぇのか?」
「んー・・・私は一と一緒にいられればどこでもいい」
「・・・そうかよ」
照れ隠しにマフラーに顔を埋める一が可愛くて笑うと怒られた。
「俺はと二人がいい」
マフラーに埋もれたままで少し聞き取りにくかったが、多分聞き間違いはしていないはずだ。
びっくりした。でも、凄く嬉しい。
あまり「好き」とか言葉にはしてくれないが、こうやって手を繋いでくれたり、車道側を歩いてくれたり、優しく抱きしめてくれたり、
行動で大事にされているのは実感しているし、それで充分だと思っていたが、いざ言葉で言われるとやっぱり嬉しい。
照れていたはずの一はいつもの一に戻っていて、次に照れているのは私だ。
「今年もあいつらほっとくべ。部活終わったら、どっか行くか?」
「じゃあさ、駅前のイルミネーション見に行こうよ」
「駅前より電車乗ってったとこにすげぇイルミネーションあるんだろ?そっちの方がいいんじゃねぇの?」
「そんな遠い方に連れてってくれるの?」
近くの駅前の広場にそこそこの規模のイルミネーションが出来るのは毎年の事で、クリスマスの夜はカップルで賑わう。
他に電車に乗って15分したところにある街中のイルミネーションは駅前のものよりも豪華で、雑誌に載ったりもしていると友達が言っていた。
本当は街中の方に行ってみたかったが部活が終わった後と考えると近場の方が良いかな思ったのだが、一にはバレていたようだ。
「今日、26日休みって言ってたし、遠くてもいいんじゃねぇの?」
「急に休みとかどうしたのかな?溝口くん、彼女出来たとか?」
「さぁ?25日うちに泊まってくか?」
「泊まってく!」
クリスマスの予定がどんどんと決まっていくのが嬉しくて、つい大声を出してしまうと、一が笑って私を見ていた。
少し恥ずかしい気持ちもあったけれど、クリスマスが待ち遠しくて私も一に笑みを返した。
「送った時におばさんに俺から言うわ。あ、おじさんもいるか?」
「お父さん今週は早めに帰ってくるって言ってたから帰ってきてるかも」
「おじさんに会うの久しぶりだな」
「一に会えてないってお母さんに文句言ってたよ」
「何だそれ」
肩を揺らしながら笑う一を見て、つられて私も笑う。
家と岩泉家は家族ぐるみで仲が良く、うちの両親は一を息子のように思っているし、一の両親も私をとても良く可愛がってくれている。
友達には「周りの環境が出来すぎている」と言われるが、私もそう思う。
でも、この2家族に及川家が混ざっても仲良くしている訳で、私と一が付き合ってから両親たちが仲良くなった訳ではない。
その分、一と付き合うことになったと報告するときはもの凄く恥ずかしかったのを今でも鮮明に覚えている。
「あ、今日うちでご飯食べていく?お父さんいたら喜ぶし」
「そうするかな。鞄置いてくる」
「うん。私、お母さんに電話してみる」
学校からはうちよりも一の家の方が近くて、一の家の前でお母さんに電話を掛ける。
一とおばさんの話声が聞こえてくる。もう一の分の夕食準備しちゃってたかな?それだったら申し訳ないや。
数回のコールのあと「もしもーし?」とお父さんが電話に出た。夕食準備で手が離せないらしい。
「一の分の晩御飯もあるかな?」
「一君の分の晩御飯ぐらいなんとかなるから連れてきて」
「お父さんが作るわけじゃないじゃん。お母さんに聞いてよ」
一君連れてきても大丈夫だよーと奥の方でお母さんが叫んでいるのが聞こえてきた。
そう思ったら今度はおばさんが家から私の名前を呼びながら出てきたので、「わかったよ」とだけ言って通話終了をタップした。
「ちゃん、家入って。こんな寒いのに外で待たすなんて信じられないわね」
「電話してたので、大丈夫です。それより、一のご飯作っちゃってました?」
「あぁ、大丈夫、大丈夫。お父さんに食べさせるから」
「、行くぞ」
「うん。それじゃ、おばさん、寒いから早く戻って下さい!そんな薄着じゃ風邪引いちゃう」
おばさんと話していたのに一に手を引かれ無理矢理歩かされる。
振り返って見るとおばさんはまだ外に居たので、軽く手を振ると振り返してくれた。
「私、一のお母さん好き」
「おー。今度本人に言ってやれ。もの凄い喜ぶぞ」
「でも、一が一番好き」
急に無言になってしまい、不安でチラッと一を見るとまたマフラーに顔を埋めていた。
「一はもの凄い喜んでくれないの?」
そう言うと一は立ち止り、繋いでいた手を離して優しく抱きしめられる。
少しきつく抱きしめられたかと思うと、「俺もが好きすぎて、どうしようもねぇ」と耳元で囁かれた。
今日の一はどうしたんだろう。こんなに欲しい言葉を言ってくれるなんて。
凄く寒い静かな夜の中、どうしようもない幸せを感じて一の胸元に顔を埋めた。
その声でわたしに伝えて
151214 家長碧華
タイトル提供:Catch sight of