春が過ぎて夏になった。友達はたくさん出来たし、授業もまぁまぁついて行けているし、まだまだ巧くは出来ないけれど部活は楽しかった。
この間初めてトスを上げてもらったが、変なところに当たったり、ネットを越えなかったり、スパイクと呼べるものは打てず散々だった。
練習しなければならないことが山の様にある。それが何だか嬉しかった。
「今日、及川先輩いないんだけどー」
「知らないよ、そんなこと」
「冷たい」
休憩や自主練となると、は相変わらず「及川先輩」の話をし出すし、男バレの方ばかり見ている。
いつか先輩達に怒られるんじゃないかと私の方がヒヤヒヤしてしまうのは何故だろう。
「岩泉先輩はいるのになー」
恋なんて殆ど知らない私だけれど、及川先輩も岩泉先輩もかっこいいと思った。でも、それは先輩だからという憧れの方が強い気がする。
のようにキャーキャーしたい訳でもないが、視界に入った時は少し心臓がうるさくなる。それくらいだった。
だから、この間岩泉先輩に助けられてきゅんってならないの?とに聞かれても首を縦には振らないし、
岩泉先輩が気にならないの?と聞かれて少し頭を悩ませた。
1年生と3年生では教室の階も違うし、部活以外で見かけることは殆どなかった。
放課後、特別教室を掃除している時に及川先輩と岩泉先輩が2人で下校するのを見かけるくらいで、2人はいつも一緒にいるんだなと思った。
やっぱり、2人を見かけた時は心臓が少しうるさくなる。
このドキドキが憧れなのか恋なのか、よく分からなかった。
それに、及川先輩に対してドキドキしているのか、それとも岩泉先輩なのかも分からなかった。
そして、あっという間に3年生は引退してしまった。
半年程しか一緒に部活は出来なかったけれど、こんな下手な私に優しく基礎練に付き合ってくれた先輩達がいなくなるのは寂しかった。
勿論、男バレも3年生は引退し、及川先輩と岩泉先輩を見かける回数はグッと減った。
「及川先輩がいない男バレは華やかさがなくなったね」
「及川先輩がかっこよすぎたんじゃないの?」
「そうだよねー。及川先輩を超えるイケメンはなかなか現れないよねー」
「ほら、いつまで見てても及川先輩は来ないんだから、練習しようよ」
じっと見ていた及川先輩がいなくなり、の練習に対する意識が変わるかと思ったらあまり変りもせず、むしろ前よりも動かなくなってしまったかもしれない。
本当にこの子は何のために女バレに入ったのだろう。
一つため息をつくと、私はを置いてサーブ練に加わろうとしたとき、体育館のドアが開き顔を覗かせたのは岩泉先輩だった。
体育館をキョロキョロと見まわした後、一番近くにいた私に声を掛けてきた。
「なぁ、女バレの顧問いねぇの?」
「今はちょっと職員室に行ってます」
「マジか。さっき職員室行ってきたのに・・・。ありがとな」
そう言ってドアを閉めた後、心臓がもの凄くドキドキしているのに気が付いた。
ありがとうと言ったときに見せてくれた小さな笑顔。その笑顔が脳裏に焼き付いてドキドキが止まらない。
憧れの先輩と話せたから?それともこれが恋?ちょっと転びそうな所を助けてもらって今日少しだけ会話しただけで恋ってしちゃうものなの?
恋愛初心者の私には何もかもわからない。
フワフワとした気持ちのままサーブ練に加わり、一本も入らないまま次の練習へ移ってしまった。
ドキドキするのには慣れていないんだ
160106 家長碧華
タイトル提供:Catch sight of