体育館をそろそろ閉めなければならない頃、時間を見計らってはやってくる。

3年生のは大学受験を控えていて、俺は毎日部活があって、デートというデートを殆どしていないが、 下校だけ唯一一緒にいられる時間だった。


「おっ!!」


は木兎さんと3年間同じクラスらしく仲が良い。
いつも体育館に顔を覗かせたに一番に声を掛けるのは推薦で既に大学が決まっている木兎さんだ。

それに笑顔で応えるを注意したいが、 そんなことをいちいち気にする小さい男だと思われたくもない葛藤で何も言えずにいる。

が、木兎さんに笑顔で応えた後、俺に小さく手を振ってくれるのが可愛くて、 どうでも良くなってしまうのが本音だったりもする。


「木兎さん、次でラストにしましょう」

「よっしゃ!良いトス頼むぜ、あかーし!」


木兎さんに気持ち良くスパイクを決めさせてから、ボールをカゴにしまって行く。
他の居残りメンバーもそれぞれ用具をしまい、俺はモップを掛けながらに近付いた。


「ごめん、もう少し待ってて」

「うん。ちゃんとキレイにしないとね。あ、私も手伝う?」

「大丈夫。ありがとう」


一通りモップ掛けが終わると、体育館はカギを閉めてしまう為、も一緒に部室へ向かう。 中に入る訳ではないが近くで待っていてくれる。

この時季は部室の外は寒く、待たせるのは申し訳ないから急いで着替えるのだが、 木兎さんのどうでもいい会話に無理矢理参加させられる。

適当に相槌を打って、準備が整うと今日は木葉さんが話題を変えて木兎さんの気を逸らしてくれた。有難い。

アイコンタクトでお礼をすると「お先に失礼します」と告げて、部室を出た。


「ごめん、待たせて」

「大丈夫」

「これから寒くなるから、俺が図書室まで迎えに行くよ」

「ううん。少しでも良いから京治がバレーやってるとこ見たい」


いつもが見てるのは居残り練だから、そんな大したことはやっていないがそれでもいいのか。

見ても対して面白くないと思うのだが、が満足しているなら良いか。

玄関へ向かって歩いていると「あ!」と大きな声を上げて、立ち止まった。 振り返ると少し不安そうな表情をしてこちらを見ている。


「もしかして、体育館に来られるの迷惑だった?」

「なんで?そんなこと、思ったことないよ」

「私のせいで皆京治のこと悪く言ってない?」

「言ってない。むしろ、先輩たちも張り切ってるから」


そう言って、に手を差し出すと「張り切る?」と呟きながら近づいてきて俺の手を握った。

冷たくて小さなの手を暖めるように壊してしまわないように優しく握り返す。

マネジじゃない女子が見ているから張り切っているのもあるが、羨ましがられる方が多いかもしれない。

後輩の彼女相手に張り切るのもどうかと思うのだが。


「皆、に良い所見せようとしてる。俺の彼女なのに」

「じゃあさ、彼女のお願い聞いてくれる?」

「ん?どうしたの?」


がこんな風にお願いをしてきたのはこれで二度目だ。

最初の願いは「敬語をやめてほしいな」と言われ、すぐにやめた。

今回は何だろう。無理な願いじゃなければ、受験勉強で頑張っているの願いは叶えてあげたい。


「部活がお休みの日にデートに誘ってくれない?」


あまりにも考えていたこととかけ離れた言葉が飛び出してきて、戸惑ってしまったけれど、 その言葉は俺にもとても嬉しい言葉で、 誘って欲しいと言っているのに自分が誘ってしまっている事がらしくて笑ってしまった。

毎日休みなく勉強しているを知っているから、何度もその言葉を飲み込んできたが、
もしかしたら俺から誘われるのを待っていたのかもしれない。


「本当は勉強しなきゃいけないんだろうけど、1日くらい京治とデートしたっていいよね?」

「毎日頑張ってるの知ってるから俺が許す。俺もと一緒にいたい」

「ありがとう。京治にそう言われると、何かホッとする。遊ぶってイケないことみたいに思っちゃうから」


のi Podの中に入っているものが、最近は歌よりも勉強の方が多くなっているのを知っている。
それを登校中に聞いているのも知っているし、鞄の中には参考書がたくさん入っているのも知っている。

デートする時間も殆ど取らず、一日で一緒に居られるのは下校時のみという生活がどれくらい続いただろう。

「受験生」というものを見せつけられ、「年の差」を見せつけられたが、俺は「男」であり、「彼氏」なのだからと、 自分の欲は抑えつけてきた。

今なら、少しだけ欲張ってもいいだろうか。


「勉強に疲れたら、いつでも言って。何時だろうと電話して。会いに来てほしいなら、会いに行くよ。 きっと、俺も部活があって疲れてるとか気を使って今までは少しのLINEだったのかもしれないけど、もっと我が侭言ってくれる?」

「それは・・・京治もちゃんと休まないと。会いに来てなんて言えないよ」

「言えないってことは思ってはいるんだよね?」


ごまかすのが下手なの表情が全てを物語っていた。

俺だけが会いたいと思っていたわけではないんだと、安堵し、口元がニヤけてしまう。


に会いに来てって言われたら、疲れなんて吹っ飛びそうだから、言って?」


これからは、にお願いされることが増えてくるかな?と少しだけ期待し、 部活の休みがこんなに待ち遠しく思ったのはいつぶりだろうと考えた。





俺もお年頃ですから





2016.11.26 家長碧華
 タイトル提供:rain rain