「あーさみ」
「ホント、寒いねー」
もう夜だ。周りが暗い。電柱の電灯だけを頼りに道を歩く。翼が寒いと言って両手を擦り合わせて手に息をはあーっとはきだして温めている。
頬に冷たいものが落ちてきた。雪だ。空を見上げるとたくさんの白い雪が舞い降りてくる。どうりで寒いはずだ。
「雪だよ、翼ー」
「あ、本当だ。マフラーしてくればよかった」
「私手袋してくればよかった」
「手袋?手袋なんていらないだろ」
「なんで?寒いよ?手ー冷たいよ?」
「手、繋げばいいじゃん?」
「ほら」といって差し出された手を握る。翼の手もとても冷たくて、初めは繋ぐ意味ないじゃんとブーたれていた。
繋いでからも寒い、寒いと言っていた私に翼が「うるさいな」といい制服のズボンのポケットに手を繋いだまま入れられる。
ポケットの中がそんなに広いわけではないので、二人の手を入れるには狭かったが、外の空気に直接触れることがなくなり徐々に温かくなった。
「どう?まだ寒い?」
「手は寒くないよ」
「じゃ、どこが寒い?」
「手、以外」
「お前な・・・。オレだって寒いよ。ソレぐらい我慢してもらわなきゃ困る」
「コレぐらい我慢する。今なんだか幸せだから」
「寒いのに幸せっては変なやつ」
翼の隣をこうやって歩けるのは私だけの特権で、翼と手を繋げるのだって私だけの特権だ。私にしかできないことがたくさんある。
そう思うと寒さになんか関係なしに、あー幸せなんだなーと思う。翼はわかってくれてないのかな?幸せだって感じてないのかな?と不安になる。
「じゃ、ちゃんと暖かくしろよ。季節の変わり目、風邪引きやすいだろ」
「うん。気を付ける」
「じゃな」
「うん、ありがと。ばいばい」
翼に自分の家まで送ってもらい、ドアの前でばいばいと手を振る。今日は電話くれるかな?とだんだん小さくなっていく翼の背中を見て切なくなってきた。
最近、部活で疲れているのはわかっているけれど(マネージャーで一番近くでその頑張りを見てるわけだし)電話をくれなくなったのはすごく、すごくすごく寂しかった。
翼はそのことをちゃんと謝ってくれて、私は素直に「電話欲しい」とはいえず、「大丈夫だよ」と返している自分がときどき嫌になった。
翼が、ぴたっと止まり振り返った。ん?なにかあったかな?と、とりあえず歩道に出る。
「今日電話してやっからな。寝んなよ!」
両手をポケットに入れているのはなんとなくわかったが、翼の表情は暗くてわからない。声色はとても優しいものだった。少し照れていたような気も、する。
顔に出てたのかなー・・・!と両頬に手をあてる。手の冷たさなんか気にならないほど、嬉しい気持ちでいっぱいだ。今日は翼から電話がかかってくる。
「うんっ!待ってる!」
「じゃ」と言ったように右手を軽く上げて翼は再び歩き出した。翼から電話がかかってくるのはきっと10時ころだ。時間は言ってないけど、そんなのなんとなくだ。
翼から電話がくるということが今の私にはとても嬉しい事だった。今日は先にお風呂に入って、ご飯を食べて部屋で携帯を握って待っていよう。
寝ないようにベッドに横になって待つのは止めよう。翼の背中が見えなくなり、ドアを開けて「ただいま!」と元気良く言うとお母さんも「おかえり!」と元気良く返された。
「お風呂入る!」
冷え切った身体を温めるために、湯船に浸かる。その間も考えることは翼のことで、なに話そうかなーと思うとつい頬が緩む。やっぱり、私幸せだなーと思って、つい長風呂をしてしまった。
急いで上がって、携帯を見ると着信履歴はない。良かったーと安心してドライヤーをかける。翼、今なにやってるかな?私が翼のことを考えているように、翼も私のこと考えてるのかな?
「!ご飯は?」のお母さんの問いかけは私には届かなかった。
安心させてよ
(あ、もしもしっ!)(もしもし。出るのはやいね、そんなに待ち遠しかった?)
071018 家長碧華
(SPEED/White Love/心露さんリク)
タイトル提供:てぃんがぁら