中学生最後の夏が終わった。なんだかあっけなく終わった感がある。そりゃそうか。終わるってこんなもんだろう。
「頑張ったから悔いはないです」とか「よく粘った。後少しだった」とか「相手のレベルが違い過ぎる」とかそんな言葉を待っていたんだろうか。
いや、オレは負けたくなかったし、オレら3年はきっとオレと同じ気持ちだったと思う。1、2年の後輩はどう思ってくれてたかは、わからないけど。あいつらもオレらのために頑張ってくれていた。これは確かな事だ。
よくわからない頭でもハッキリとわかっているのは「中学の夏が終わった」ということだった。ソレだけハッキリとしていた。なんて自分の頭は冷静なんだろう。残酷にも思えてくる。
今、最後のミーティングも終えた。監督の言葉は結構胸に来て、周りの奴らが泣いてるもんだから、つられて涙が出た。泣くなんていつ以来だろう。・・・くそ、終わったんだ・・・。
チャリを漕いで帰る気分ではなくて、一人で押して歩いていた。今さっきまでやっていた試合の映像が頭をよぎる。あそこで打てば。あそこでアウトにしておけば。そんなことはたくさんある。
あっても思ったって意味がないことで、現実逃避にしかならないこともわかってる。
帰り道は毎日この公園の側を通る。だけど、いつもココを通るときは時間が遅いから子供なんて誰も遊んじゃいない。けど、今日はまだ夕方前で、数人の子供が元気に遊んでいた。
「孝介ッ!」
いきなり声を呼ばれて驚いた。その子供の中に知り合いでもいたか!?と見ても、小さい子供の知り合いなんていない。でも、公園の方から呼ばれたのは間違いない。
子供たちが遊んでいた砂場から目を離して、違うところへ目を向けるとが走ってオレの方へやってくるのが見えた。なんだ、か。・・・あ?なんで公園に一人でいるんだよ。
公園の入り口から入って、チャリを適当な場所に止めて走ってくるを待った。良い年こいてなんで公園に。呆れてくるな。
「なにやってんの、こんなとこで」
「孝介待ってたの」
「は?なんで?」
「落ち込んでるかなーと思って!ホントはグラウンドまで迎えに行こうかと思ったんだけど、嫌がるだろうなって。だから、ここで待ってたんだけど」
なんだ、オレが負けたこと知ってんのか。母さんから聞いたか?それとも観に来てた?まあ、どっちでもいいや。でも、の目の前で負け試合見せるのは嫌だな。母さんから聞いたってことにしておこ。
落ち込んでるっていうか、悔しい。ただ悔しい。勝てる試合だったんだ。負けるなんて誰も思ってなかった試合なんだ。
ココまで走ってきたときのの表情が何故か切ない表情で、歩いて頭を冷やしてきたハズなのに全部パーだ!思い出させんじゃねーよ、のくせに!は、らしく笑っとけばいいんだよ。
「会えてよかった。いつもと違う道通ってたらどうしようかなーって考えてたとこ」
「お前もバカじゃねーの。家で待ってればいいじゃん」
「なんか、家にいられなかった!孝介のおばさんうちに来ててさ。負けたって聞いて飛び出してきた」
母さんから聞いたんだ。よかった。負け試合見せたわけじゃないんだな。
は多分、次の試合を観に来る予定だったんだ。今日の試合は用事があるけど、大丈夫だろうって。心配してたけど。ソノ心配が見事に的中したわけだ。
がなんとかオレに元気を出させようと喋っている姿を見て、なんだか負けたことにクヨクヨしてる自分が気持ち悪くなってきた。オレらしくねー。次は高校野球だ。高校球児なら誰もが憧れる甲子園が目指せる。
ポジティブに考えて進むしかないんだ。
「」
「ん?」
「帰るぞ。乗せてやっから乗れよ」
チャリのスタンドを蹴って公園の入り口へ向ける。先にチャリに乗って待っているとの手がオレの肩に乗って、もオレの後ろにちゃんと乗った。
行くぞ。と言ってチャリを漕ぐ。重。と呟くと「失礼ー!そんなに重くないよッ!」と肩をバンバン叩いてきた。重かったら、こんなスピード出せるわけねーだろ。はホントにオレが重いと感じていると思ったらしい。
オレだって試合やってきて疲れてんだぞ。重いやつ乗せて漕ぐかよ。
「」
「ん?」
さっきと同じだ。呼んだら、はいつも「ん?」と返事をする。ソレがなんとなくすきだった。呼べば、返ってくる。安心する。
次の夏は負けねーよ。凄いとこまで行ってやるよ。でも、最後までには言えなかった。
まだ未熟なオレだから
(あの時のオレは自信がなかったんだ)
080218 家長碧華
(一青窈/さよならありがと/あさのいちさんリク)
タイトル提供:MISCHIEVOUS