夏色の想い出



「あ、翼先輩!」
「ん?お前らどうしたんだよ。生徒会室にまで来て。なんかあったか?」


生徒会室で、生徒会長として仕事をしているときだった。他の生徒会メンバーは、今はいない。 文化委員長のがさっきまでいたけれど、担当の先生に用件があると、出ていったばかりだ。 この仕事を終え、と一緒に部活に行くつもりだった。(はサッカー部マネージャーだ)

そこへ、2人のサッカー部1年生がやってきた。部活中なはずだ。俺がいないあいだは、副部長に今日のメニューを教えてある。 今日は先生も職員会議でいないはず。2人に聞いたように、なにかあったのだろうか。


先輩いませんか!?」
「・・・は?」


文化委員長ですよー!ともう一人のやつも、俺に迫ってくる。?いるさ。今はいないだけで。でも、どうして、マネージャーに用があるのだろう。キャプテンの俺じゃなく。

生徒会室を覗き込み、そこに俺一人しかいないと知ると、二人は大人しくなった。


「どこ行ったか知ってますか?」
「ちょっと用があるんですけど・・・!」
「用ってなに?」


今度は俺が二人に迫る。どこにいるかは、わかってる。この生徒会室の向かいにある、職員室にいる。先生と話し込んでる。 でも、そう言ったって、先生と話してて、二人の用を聞ける場合じゃない。


「で、用ってなに?俺が変わりに聞いてやる」


そう言うと、途端に顔を俯かせる。一体なんなんだこいつらは。 入部してきて、2ヶ月ぐらい経つし、性格はわかってたはずだけれど、今のこいつらはわからない。

ずっと黙っている二人を前に、少々苛立ちを覚えてきた頃、向かいのドアが開いた。 失礼します。と、告げてが職員室から出てきた。


「あ、


俺がそう言うと、二人の顔が一斉に上がり、後ろを振り返る。 やっと見つけました!と、廊下に響くほどの大きな声。もちろん、の表情は驚いている。


「こいつらが、に用があるってさ」
「ん?どしたの?」
「あ、あの・・・」


さっきの大声は、なんだったのだろうと、今度はヒソヒソと近くにいる俺にさえ聞えないほどの小声でなにか囁いている。 真剣にそいつの小声に耳を澄ませ、頷いているを見ているしかなかった。


「あ!ごめん!私、忘れてた・・・!!」


またしても、廊下に響くほどの大きな声。今度はだ。職員室の向かいだというのに。 少しは、ボリュームを下げられないのか、サッカー部は。


「いえ!忙しそうだったから・・・それで、聞きにきたんですけど」
「ちょっと待っててね。書いてあげる」


俺の横を通り過ぎ、生徒会室の自分の席に着く。引き出しから、真っ白なA4の紙を取り出し、ペン立てからお気に入りの一本を取り出す。 お前らは入るなよ。と注意をし、俺も生徒会室へ戻った。ドアも閉める。 いきなり何を書き始めたのかと、段々の字で埋まっていく紙を覗き込む。 一番上には、デカデカとタイトルが付けられていた。


「ドリンクの作り方?」
「そー。今日、ドリンク作ってくるの忘れちゃった。あの二人が作ってくれるらしくて。でも、作り方を忘れたから、教えてくれって」


分量はもちろんだが、ボトルの置いてある場所まで書いていく。部室の棚に置いてあるのは、多分部員全員が知っているだろう。 最後の残ったドリンクの後始末方法、ボトルの洗い方など、とにかく細かいところまで書いている。


「そこまで細かく書かなくても、わかるんじゃない?普通。」
「初めはわかんないんだよ。ほら、私の経験上、役立つ豆知識みたいなやつ? これ一枚書いて、部室に貼っておけば誰でもドリンク作れるようになるし!いいじゃん!」


チラッと廊下に待たせているあいつらを見る。一人と目が合った。と、直ぐに疑問がわき、の方に視線を戻す。


「なんであいつらは俺に聞かなかったわけ?」
「あー・・・、翼先輩に聞くと、そんなことも知らないわけ?ってマシンガンが飛んできそうで・・・。って言ってたよ」
「あいつら・・・」
「後輩が可哀想だから、マシンガンは飛ばさないであげて」


よし。とドリンクの作り方が完成したらしい。ペンをペン立てに戻し、立ち上がる。


、仕事終った?」
「うん、終ったよ。部活行く?」
「行く。それに、あいつらのドリンクの作ってるとこ見たい」
「うわー、翼、なんか嫌味だわ、それ」
「キャプテンがついててあげるんだよ?1年生に。光栄だと思ってほしいね。ほら、お前らも行くぞ部活。」
「え、あ、はい!」
「キャプテンが、一緒にドリンク作ってくれるってよー」
「は、はいっ!」





07/06/29 家長碧華