「貴方たちは、他のどの学校よりも苦労してサッカーをしてきた。だから、サッカーの本当の楽しさは貴方たちが一番わかってると私は思ってる。 決勝まで行かせてあげたかった・・・私の力不足です。 3年生は今日で引退で・・・翼は本当に頼もしい部長だったわ。 このチームで1日でも長くプレーさせてあげたかった。ごめんなさい・・・。

今までありがとう」





すべては鮮やかだった





俺たちの、俺の夏が終った。

中学最後のホイッスルを聞いた瞬間は、ただ悔しさが残っただけで、 泣き崩れているチームメイトを立たせて、グラウンドを後にした。

が玲の隣で泣いているのが見えたから、真っ直ぐにの方に向かって。


「何でお前が泣いてるのさ」
「だって・・・最後だよ?」


正直俺だって泣きたかった。けど、何故だか涙が出てこなくて。 ポロポロ泣けるが少し羨ましく思えつつ、流れる涙を自分のタオルで拭ってやった。


部員を玲の周りに集めさせる。この仕事も今日が最後だと思う。


「貴方たちは、他のどの学校よりも苦労してサッカーをしてきた。 だから、サッカーの本当の楽しさは貴方たちが一番わかってると私は思ってる。 決勝まで行かせてあげたかった・・・私の力不足です。 3年生は今日で引退で・・・翼は本当に頼もしい部長だったわ。 このチームで1日でも長くプレーさせてあげたかった。ごめんなさい・・・。

今までありがとう」


高校サッカーの番組で見たことがあるような風景だった。 俺もあんなに泣くのだろうかと思ったことがある。

初めはそんな、第三者的に思考が働いていて妙に冷静だった。 でも、周りの鼻水をすする音、涙を流しているチームメイト。 何より、玲が目に涙を溜めているのを見ると思考が飛葉中サッカー部部長に戻った。




「今日ぐらい、泣いてもいいんだよ?」


そう一言、に言われただけだった。 笑顔で涙を流して、そうに言われて、今まで出てこなかった涙が流れてた。

俺だって、1日でも長くプレーしたかった。このチームでずっとやれるものならやりたい。


「私だって、1日でも長くマネージャーやってたかった。 翼のプレー観たかった。飛葉中のサッカー観たかった。 でも、これが最後なんだ。現実なんだ。思いっきり泣けばいいよ、翼」
「・・・そんなの、泣いてるに言われたくないんだけど」
「あはは・・・それも、そうだ」
「俺たちの意志は柾輝たちに託して、俺たちは今度は高校で新たな意志を引き継ぐんだ」
「もう、切り替えたの?」
のように引きずらない性質だからね、俺は」
「・・・翼の努力を私は知ってるからですー・・・」
「・・・ありがと」


は俺の分まで涙を流しているようだった。


玲と握手をして、目を合わせるとまた涙が出そうになるのをグッと堪えて精一杯の笑顔を見せてやった。 部長から部員に一言、本当に一言だけ言ってやった。


「俺がいなくなって、弱くなったと言われない様に強くなれ」


柾輝にはアイコンタクトで、部長はお前だ。ということも付け加えた。








今俺は高校3年生。あの中学生のときに流したの涙が、今の俺の糧に少しはなっている気がする。 あんな涙はもうには流させてやりたくない。

高校を卒業したら、スペインに行くことが決まった俺。 チームメイトは優勝で送り出してやろう、という決意でこの最後の大会に臨んでいる。 ベンチには、が手を合わせて選手の俺より緊張しているようだ。

これに勝てば、決勝進出。ここで負ければ、中学のときと同じ思い。

昨日、柾輝から優勝したぜとメールが届いた。 俺たちの意志を柾輝たちはしっかりと引き継ぎ、俺の最後の一言通りにやってのけた。


俺は不思議と負ける気はしなかった。






070129 家長碧華