やっと勉強から開放されて、グラウンドへ向かえる時間。今週は掃除当番もない。ラッキーだ。外へ出るとやわらかい風が吹いた。学校内にいるより外の方が涼しい。 見上げれば青い空が広がっている。野球日和とはこういう状況か。

グラウンドには誰もいなかった。オレが一番か珍しい。じゃ、部室は開いてないか・・・?鍵持ってんの花井だよな。あいつ掃除当番だったっけ。確かめるようにドアノブを引く。あ、なんだ開いてんじゃん。



「あれ、隆也じゃん」
「なんだ、か」



中にはマネージャーをやってるオレの彼女がいた。花井から鍵貰ってたのか。お前だけ?と尋ねると「そうみたい。珍しく田島くんたちが来ないんだ」と言って田島たちが来ない事を不思議がっている。 ドリンクに関係あるもの一式を抱え込み、ドアが閉まらないように押さえてやっていたら、「ありがと」と微笑んで外のベンチに一式を置きに行った。

そういや、三橋がなんか言ってたっけ。数学のワークの提出日が明日までだとか。田島と三橋は多分ソレで遅れてるんだろう。一歩部室へ入ると空気が変わる。もわっとした生ぬるい気持ち悪い気温。 入ってすぐに窓を全開にした。少しの風が入ってくる。それだけでも、かなり違う。



「うあー外涼しい。部室暑い!」
「窓開けないでよく居られたな」
「私が入ってすぐに隆也来たもん。でもさ、窓開けてていいの?着替えるんでしょ?」
「ンなもん気にしねーよ。グラウンドに来る奴なんて限られてんだし」
「私と千代は女の子だよ!気にしてよー」



暑いから部室に入りたがらないのか、開いている窓からオレに話しかけてくる。着替えるってわかってるのに、そこにいるのか?お前は。なんて言ったら顔が真っ赤になるのはわかっている。 自分で早く気付けよ。何も言わずにワイシャツ脱いじまうか?そっちの方が面白そうだ。



「うーす」
「あ、泉くん!」



どっちにしようか考えてると泉がやってきた。丁度いい。泉の方を向いている間にオレはワイシャツを脱ぎアンダーシャツに着替えようとした。アンダーシャツに手を通そうとしたときに再びオレの方へ視線が戻る。 なんか言われる前に素早くアンダーシャツを着た。見ると顔を真っ赤にしたと、「なに?どうかしたか?」と窓から覗き込んでくる泉。「ちわッ!」と何人かの挨拶も聞える。 段々と野球部員が集まり出してきたな。



「き、着替えるなら言ってよ!ばか隆也!」
「お前着替えるのわかってたじゃねーかよ」
「そんなの知ってたけど知らない!」



そう言い残しては窓から手を離してどこかへ行った。タッタッタと土の上を走る音が聞える。窓から顔を出して見てみると真っ赤な顔のままどっか走っていきやがった。あんまり走ったらスカートめくれるだろーが。 早くお前も着替えてこいよ。なんでこんなんで赤くなれるんだかオレにはわからねえ。



「オレ、もうちょっと遅く来てればちょっと面白くなってたな」
「確かに、そーかもな」
「なんだよ阿部。彼女のフォローとかしてあげないんだ?」
「オレはあーゆー反応もすきなんだよ」
「へー。なるほど」



「なんかのやつ顔真っ赤だったけど、二人なんか知ってっか?」花井が着替えながら尋ねてきたけど知らないふりをした。あいつの反応はすきだけど、それを誰かに教えるようなことはすきじゃない。

キャップを被って外へ出る。男3人居るだけで暑い。窓全開でも意味がない。次から次へと部室で着替えていくわけだけど、窓が全開でも誰も何も言わない。ほら、オレだけじゃねぇ。 誰も着替えるのにそんなの気にしねぇんだよ、男は。むしろ、グラウンドで着替えようとする奴だって居るんだ。そいつに比べたらオレはちゃんと部室で着替えようとしてんだから、いいじゃねえか。

ガシャン。金網特有の音がした。また誰か来たか。おせぇな。

「ちわッ!」という挨拶が聞えなくて、誰だと思って見ると、そこにはお気に入りだと昨日自慢していたadidasのジャージに着替えてきたが立っていた。何故かグローブとボールを持っている。



「走って更衣室行ったときに、空が真っ青で、風が気持ちよくて、隆也のユニフォーム見たら私も野球がやりたくなった!」



「ジャーン!実はマイグローブ!」と今日はグローブを自慢された。明日はなんだ?スパイクか?野球日和だー!!と叫んで今日は野球部しか使わないマウンドへと走り出した。

・・・よくわかんねえやつだ。自分の彼女なのに全然わかんねえ。なんか呆れて笑えてくるぜ。



「隆也!キャッチしよっ」



マウンドに立つ意味はわからなかったが、そこに立ちたちなら立たせてやろう。三橋が来たら、すぐにそこゆずれ。とは言わないでおいたが、キャッチならマウンドじゃない方がいいだろと言ってやった。 「じゃ、投球練習」と嬉しそうに言っておおきく振りかぶってポーズをとる。おい、オレはまだ座ってねぇぞ。「ほら、はやく!三橋くん来ちゃう!」あぁ、わかってたんだな。三橋のこと。

防具は一切つけずにミットだけで、座る。18・44Mなんて素人のにはとどかねぇと読んだから。座って、構えて、を見たときに、の後ろにおおきな入道雲が見えた。なんか、意味なくきれいだと思った。

左手で拳を作りミットを叩く。乾いた音がする。軽く投げてみろと言ってミットを真ん中に構えた。





爽やかな晴天
 (隆也まで届かない!と嘆くにオレは二塁まで届くというと凄く興奮したように騒ぎ始めた)





080222 家長碧華(拍手だったものをアレンジ)
 タイトル提供:BIRDMAN:天気で5題