1分間だけ胸貸して
「、なんかあったわけ?」
夏休みに入って二日目。
翼とデートの約束をしていた日。
昨日人生で初めて髪を染めた。
美容院で染めてもらえるほど、学生にお金はなく、自分で染めた。
結構うまく染まった気はしている。
翼になんと言われるか楽しみで待ち合わせ場所に10分早く着くように行った。
でも、翼はすでに居て、そして、そう言われたのだ。
「、なんかあったわけ?」
なんにもないといえば嘘になるかもしれない。
夏休み前から私は少しの女の子らしさに目覚めて(に遅ッ!と突っ込まれたが気にしない)
夏休み中に少しでも可愛くなると決めたのだ。
それが髪を染める、という安易な考えに結びついたのはにも内緒。
「えー・・・なんにもなくない」
「どっちだよ」
「なんにもなくない」
「・・・ったく。行くぞ」
似合ってなかったかなぁ・・・とがっかりして、可愛くなるぞ計画をやる意味がなくなった気がした。
翼はもう歩いている。
後姿すらかっこいいと思ってしまう私は、本当に翼がだいすきだ。
ファッションが今時のなんだけれど、どこか翼風なんだ。
いきなり翼が振り返った。
私がついてきていないのはお見通しのようだった。
。と口の形でわかった。
翼の声が聞えないほど翼は先に歩いていた。
近づいてくる翼の足音は聞えている。
「なにしてんの。今日は映画見に行くんだろ?
、楽しみにしてたじゃん」
「してたよ。・・・今もしてるもん」
「じゃ、行くぞ?」
やっぱり似合ってないんだ。
そんなに変だと思わなかったんだけど。
・・・次に翼に会う日までに元の黒に戻しておこう。
しびれを切らしたのか翼は私の手を取り歩き出した。
私、中身から可愛くないのかもしれないと思うと切なくなってきた。
そして、ちょっと歩いて手を離される。
うざい女だなー私。と思っていたら、今度はしっかりと指を絡めて繋がれた手。
いわゆる恋人繋ぎ。
そして、再び歩き始めた。
「翼?」
「なに?」
「な、なんでもない・・・けど」
「、可愛くなりたいんだって?」
「なんで知ってんの!」
「から聞いた。これ以上可愛くなってどうするわけ?」
「・・・え、え?」
珍しく翼の頬がほのかに赤い。
ちょっとだけ照れている。
「似合ってるよ、その色。最初は本当にどうしたのかと思ったし、の黒髪すきだったし。でも・・・似合ってる」
「・・・よかったー・・・。似合ってないのかと思った・・・!泣きそうになった」
「バカだよ、は。ホントバカ。」
「今日はバカでもいいやっ」
「なにそれ。変なの」
070807 家長碧華(4周年記念フリー夢)