「僕たちU−23日本代表が、五輪で上に行くためにはA代表並のやつらを倒していくしかない。 今日のU−23日本代表vs日本代表で、俺らの実力を確かめる。ころころとメンバーが変わってるA代表なんかに負けるわけがない。 でも、実力は確かだ。気を抜くな!行くぞっ!」

「「おぉっ!!」」


試合前、ロッカールーム一杯に広がり円陣を組むのは当たり前になっている。 選手だけでなく、監督、コーチ陣も全て円陣に入り、結束力を高める。 特に大事な試合のときは、誰もが真剣に、テンションを上げるために、雰囲気は最高だった。 キャプテンが気合が入りすぎて「行くぞっ!」の最後の部分が裏声になってしまうときだってあったほどだ。


「おっしゃ、椎名の気合がなんか移ってきた気がする」


ベンチスタートだろうが、スタメンだろうが、仲間に違いはない。「勝つ」という目的に揺るぎはない。


「一馬、いつもテレビでA代表の試合見てると思うけど今日のバックはいつもと違う。 CBの二人が怪我で離脱。ボランチとかそこらの人たちが入ってる。…わかるね?」
「まかせとけよ、英士。パス、待ってるぜ」
「後ろはまかせとけよ。Jリーグ日本人得点ランキング1位だろーが、2位だろーが得点はさせねぇよ」


今所属しているJリーグのチームよりも長い間やってきている仲間がここにはいる。 Jリーグでプレーするより、欲しいパス、タイミング、走って欲しい場所などがわかっているからやりやすい。 こんなことを言ったらだめなのかもしれないけれど、Jリーグのチームより輝ける場所がここにはある。


 「タツボン!バカにしてる記者たちに実力見せ付けるチャンスやで」
 「わかってるよ。ここで勝てば誰もが認めざるを得ない」
 「俺が出るまで、A代表さんもってくれよー」
 「シゲの出番はないかもな。藤代と真田で終ったり」
 「ベンチ裏でアップして、アップして、アップして、アピールするから大丈夫や」


今日この日のために、A代表より1週間も早く合宿を始めさせてもらった。 俺たちの気合の入りの違いを感じて、監督が快く認めてくれた。

絶対に勝つしかない。
負けられない戦い、っていうフレーズはこの試合には合わない気がするけれど、それぞれの負けられない戦いかもしれない。


「U−23日本代表のみなさん、そろそろです!」


その掛け声で、チームは最高潮に達していた。

ロッカールームを出て、A代表のメンバーと顔を見合わせる。向こうもプロだ。 若い俺たちをなめてかかってくるほど馬鹿な人はいない。むしろ若い俺たちを素直に凄いと言ってくれる人だっている。


「藤代、興奮しすぎ」
「だって椎名!A代表と俺らだぜ!?うわ、めっちゃ楽しみっ。どーしようかなー・・・ゴール後のパフォーマンス」
「そんなことを考えるとは・・・頼もしいね」
「ぜってー勝つ!安心して後ろから見ててくれよ!」


俺の後ろに立っている藤代に声を掛ける。こいつは選手入場のときはいつも俺の後ろにいる。

選手入場の前までは笑顔でリラックスしていて、 いざピッチに立って国歌を歌い、キックオフのホイッスルが鳴ると藤代はプロの顔になる。後ろから見ていて頼もしい存在だ。


想像通り、スタジアムはA代表のサポーターだか、俺らのサポーターだかわからないぐらいジャパンブルーで埋まっていた。 こんなスタジアムを見るのは初めてだ。

右側のゴール裏から俺らの名前がコールされている。なるほど、あっちがU−23日本代表のホーム側ってことか。


「椎名、俺あっちに攻めたい」


審判がセンターに立ちメインスタンドの方を向いて一直線に並ぶ。そのとき隣で藤代が珍しくピッチに注文をつけてきた。 藤代が攻めたいという方向はさっき俺が確かめたホーム側ではない方。 アウェイのA代表サポーターがたくさんいる方向だ。


「俺もこっちで守りたいからね」


コイントスでピッチ選択権獲得。勿論、A代表サポーターへ攻め込める方を選ぶ。




運命のホイッスルが高らかに吹かれた。

さぁ、俺たち黄金世代から点を取ってみろ。

勝つのは俺たちだ。



仲間と頂へ






[アトガキ]

拍手第一号。アレンジ済みです。第一号の中で一番アレンジしたのはこいつです。 「俺あっちに攻めたい」とA代表側のサポを指差す誠二がいい。ピッチに立つと真剣な眼差しになる誠二でいてほしい。 オフとオンのギャップを知ってるのはチームメイトだけでいいんです。

070327 家長碧華