「、何かあったのか」
ランニングを終え、家に帰るとが立っていた。家と原田家の道の真ん中に立っていた。
もう周りは暗い。こんな時間にただボケッと突っ立っているほどおれの彼女はバカじゃない。
「わかんない」
「は?」
「巧、いるかなって思ったら部屋、電気ついてなくて。ランニングだなって思って」
こんなに元気がないを見るのは初めてではなかった。
一度、独りが恐いと、家に来たことがある。
が独り暮らしなのは知っていたし、母さんが、いつでもいらっしゃいと、言っていた。
なにより青波が姉のように慕っているのも、関係しているかもしれない。
は、独りじゃないと言うことは簡単だった。
それぐらいおれも言ってやることは出来る。
でもには言葉は無意味だ、という事もなんとなくだが、わかっていた。
「冷える、帰ろう」
未だ道路の真ん中に立っているを見る。自分家の引き戸に手を伸ばす。
の動く気配が感じられずに後ろを振り返ると、おれをじっと見つめていた。
「何、やってんの」
「私の家、こっちだもん」
そういって後ろの自分の家を力なく指差す。なんだそんなことか。
もうおれたちは、を家族同然だと思っている。
じいちゃんから、の話が出るほどだ。
全てを言うとぐだぐだしてめんどくさい。
「第二のの家だろ」
引き戸を開け、ただいま、といつもより少し大きく告げる。
今日は、帰らないだろうな、と頭で思った。
「母さん、、連れてきた」
ただいま、がちゃんと居間にも聞えたらしい。母さんが玄関までやってきた。
「あら、ちゃん?」
「あ、おばさん、こんばんは」
「おかえり、ちゃん。お腹すいてない?晩御飯、一緒に食べましょ?」
「ちゃん、来たんか!?」
「青波」
「ちゃん久しぶりじゃー。兄ちゃんが会わせてくれんかったから」
「たった2日ぶりだよ?」
「ちゃんは家族じゃ。2日も会わんかったら久しぶりじゃ」
やっとにいつもの笑顔が戻った。
青波がの笑顔を戻したのは、気に食わないけれど、今日は黙っておこう。
母さんが、ちゃんのお皿とお箸、とキッチンへ小走りで消えていった。
その本人はまだ玄関にいるらしい。何を、してるんだか。
「、早くこいよ」
おれの隣に座布団を置く。いつもそうだ。おれの隣がの位置。青波に手を引かれて、やっと、やってきた。
青波も、いつものおれの向いの位置に戻る。
「巧のお皿とお箸よー。はい、ちゃんのも」
そういって、おれとの目の前に皿と箸が差し出される。おれは無言でそれを受け取る。が、が受け取ろうとしない。まだ、本来のではないらしい。おれが変わりにの分も受け取り、テーブルに置く。
「、ここに一緒に住めばいい」
こんな弱々しいを見るのはすきではない。
いつもの、ではないをみるとイライラしてくる。なにが、をそうしているんだ、と。
家族全員の視線がおれに向けられている。何か不味いことでも言っただろうか。一緒に住んだらダメなのか。
ダメならの家で二人で暮らせばいい。
「あら、それ良いわね。お母さんも安心だわ」
「僕も嬉しいで!」
「わしも賛成じゃ」
「ぼ、ぼくも良いと思うよ」
泣いているのがわかったから、何も言わなかったから、原田家に住むこと決定。の頭をポンポンと叩く。
孫夫婦がやって来たみたいじゃ、とじいちゃんがのん気なことを言っている。
また、が笑顔になる。これで、が元気になればいい。
またな、と別れることがもう、なければいい。あのときの切なそうな、の表情が、すきじゃないから。
笑顔でそこに居ればいい
家長碧華