「野球って、酷いスポーツだよね」
この手に掴めるもの
の言ってることが理解出来なかった。酷いスポーツ?
どこが、どう酷いのか。野球に対して、そこまで言われたことがない巧は少し首を捻らせた。
「ピッチャーとキャッチャーと打者しか動いてない。
ナインとか呼ばれても頑張ってるのはバッテリーだけに、私は見えちゃうんだもん」
野球を全然知らないからね。と付け加えて、は言葉をいったん切った。
いきなりなにを言い出すのか。沢口と東谷のキャッチボールを見ているのか、それともその奥の風景を見ているのか、どちらかわからない。
眼差しでは続けた。どう返していいか、わかっていない巧の事も見透かされているように続けた。
「ほら、私三年前までずっと静岡にいたって言ったでしょ?」
「うん」
「知らない?静岡はサッカー大国なの」
興味がないものの知識は少ない。サッカーがどこで盛んに行われているか、なんて巧にはどうでもよかった。
野球が酷いスポーツの理由が気になるだけだ。
「サッカーばっか見て来た私にとって野球は酷いスポーツ。チームプレー少なすぎ。マウンドに立って、どう?」
マウンドに立って、豪のミットめがけて最高の球を放る。それだけに集中する。
周りの声は聞えない。マウンドに立って、どう?俺の居場所なんだ。あそこが。
「最高じゃん」
豪が沢口と東谷に何か言っている。ここからでは全てが聞えない。
少し間があいてがくっくっと軽やかに笑った。
「巧らしい」
(あぁ、青波に似てるんだ)
場を和ませる笑顔。言葉で伝えていない事もなぜかお見通しで、どこまで他人のことがわかるのだろう。
それに、と居て、嫌な思いをすることはほとんどない。
「ほら、巧、行っておいで!」
「なんだよ、いきなり」
「最高の居場所で、最高の球を投げて来い!」
の隣も俺の居場所かもしれない。と気付いたのは、もうすぐ夏がやってくる頃。
070420 家長碧華