さよならを言う前に
部活が終って、夕日を横目に見ながら、自宅へと向かっていた。角を曲がると、夕日が後ろに回る。
すると後ろから、自分の影ではない、もう一つの影が出てきた。自分の横にその人物が並ぶ。
「巧」
それはお向かいさんの原田さん家の巧くん。そして、新田東の天才ピッチャー。
「明日、試合なんだ。観に来てよ」
「どこでやんの?」
「新田市営球場の隣」
「サッカー場、あったっけ?」
「ある、ある。気付かなかったの?」
「あぁ」
「シンジラレナーイ」
「お前、野球すきだったのかよ」
「私の出身地、北海道。地元愛」
ふーんと、あまり興味が無さそうに、ただ真っ直ぐ巧は見つめていた。
(あ、青波に会いたくなってきた)
そう本音を言ったら、どんな顔をするのだろう。どういう反応をするのだろう。ムッとして、何でだよ。と言ってくれるかな?それとも、来れば?と言ってくるだろうか。
無反応だったらショックだ。しかし、無反応の可能性が一番高い。
「じゃ、バイ」
あっという間に家の前に着く。誰も待っていることのない自分の家が、物凄く冷たく見える。薄暗く、どこか不気味だった。
「最初の誘いの答え、まだ出してない」
「あぁ、そっか。観に来てくれるの?」
「キャプテンから、明日のこと電話くるんだ。それまで、おれん家いれば?」
「本当!?いる、いる!青波に会いたかったんだよー」
こんばんはー。と巧よりも先に原田家の門をくぐる。道路に残された巧は、の背中をただ見ていた。キャプテンから明日は練習がある。と言われたら、の試合には行けない。
(試合開始時間、聞いてなかった)
エナメルバックを肩に掛けなおし、ただいま。と引き戸を後ろ手で閉めた。
070717 家長碧華