晴れのち雨 雨のちまた晴れ
「キャプテーンッ!今日はなにやるんですかー?」
「藤代、朝に自主練だと言っただろう?」
「あ、そうだった」
今日のサッカーグラウンドには人数はまばら。その中に一人、部活をやりたくて、やりたくて仕方ないやつがいる。
それが今ゴール前でボールの上に座っている藤代誠二。
ボールカゴを運んでいる私を見つけるや否や、自慢のスピードを活かして爽やかに駆け寄ってくる。
「俺運んであげるよ!あ、キャプテンとこにボール何個か蹴っておいてー。自主練なんか、つまんない。キャプテンとFKで対決する」
「はーい、10個あれば十分かな。渋沢キャプテーンっ!ボールいきまーすっ!」
「あぁ、ありがとう」
ボールを10個ゴールのところにいる渋沢キャプテンの方へ蹴る。
10個きちんとキャプテンの足元へ行ったのを確認し、自分を少しだけ褒めてやる。
上機嫌のまま来月の対戦校のことを少しでもまとめようと部室へ向かうと私を呼ぶ声で立ち止まる。
後ろを振り返るとボールカゴを運んできてくれた誠二が満面の笑みで手を振っている。
「観ててよ!俺本気でゴール狙うから!」
「えー・・・だって、対戦校のことまとめないとー。早くにまとめておかないと意味ないじゃん」
「そんなのいいからさっ!観てて!」
「そんなのって藤代・・・。俺らのためにまとめてくれてるんだぞ?」
「今は俺を観てて欲しいんスもんっ!」
「・・・わかった。観てる、観てる。かっこいー誠二を観せてくださいよ」
「おっしゃ!キャプテンいきますよ!」
「まったくお前は・・・」
芝の上に脚を投げ出し、ボールが飛んでこないと思われる場所に座る。
1番初めはやっぱり渋沢キャプテンがセーブして、誠二は何故か嬉しそうに悔しがって。
かっこいー誠二を観せてくれるんじゃなかったのかな、と心の中で口には出さずに嘆いてみて。
3球目をセットした途端、空から大粒の雨が降ってきた。雲が黒いわけでもなく、むしろ明るい。
天気雨なようだけれど、部員は一旦部室へ避難。
「藤代、俺らも部室へ行こう」
「えー・・・キャプテンだけ行ってて下さいよ。俺練習してますから」
「お前なー・・・」
「渋沢キャプテン行っていいですよ?誠二は私が観てますから」
「部室に行かないのか?」
「天気雨はすきなんです」
ここから動かないな、とわかってくれた渋沢キャプテンは小走りで他の部員が待つ部室へと行った。
「風邪引くぞ?」
「引かないよ。これくらいじゃ」
今度は芝の上に身体全体を投げ出してみる。雨が顔に嫌でもかかる。
ジャージもこのままいけば、べチョべチョだーとボーっと空を見上げる。
ぬっと誠二の顔が視界に入って、顔に雨がかからなくなった。誠二の後頭部に雨が直撃中だ。
「芝に仰向けで横になると気持ち良いだろ?」
「うん。サッカー選手の特許だね」
「でも、雨降ってるときに横になるの禁止」
「なんで。すぐ止むよ。ほら、止んだ」
誠二の髪から雨が滴って、私の顔に当たる。晴れた、と誠二が空を見上げ確認すると、またFKの位置へ戻っていった。
私は起き上がって、ゴールに吸い込まれていくボールの軌道を目で追う。
よし、これだ。このコースだ!と叫ぶ誠二に微笑をこぼし、なんで雨が降っているときに横になるのがダメなのかを考えてみる。
070803 家長碧華
(拍手第二号)