散歩がてら行ってみた近所の大きな公園には、大きな丘がある。ソコについたのが夕方だったからか、小さな子供たちの楽しく遊んでいる声はほとんど聞えなかった。
丘のてっぺんに立つと、沈んでいく夕日がきれいに見えて少し感動した。いつもなら、この時間はまだ部活中で夕日が沈んでいくのをこんなにじっくり見たことはない。
小さい頃あったかもしれないが、ソレは記憶にはなかった。
「にも見せたいな」
と口からこぼれると、オレは迷わずの家へ向かった。冷静に考えれば、携帯で今すぐ公園にきて!ってのもありだったかもしれない。
だけど、体が勝手に動いていた。とにかく、夕日に感動してテンションが上がったせいか無我夢中で駆け出していた。
の家が見えてきた。もしがいなかったら、という考えはオレの頭にはまったくなくて、反対になんでかは必ず居る、という自信があった。
インターホンを鳴らすと「誠二、どしたの」というの声が聞え、やっぱり居た、と嬉しくなる。(オレはに関してなら、なんでもわかる!)
「!出かけるぞ!」
「え?どこ!?」
「いいから!はやく!」
「ちょ、ちょっと待ってね」
それから数分してが出てきた。そのときには夕日はほとんど見えなくなってきていた。アノ丘に登ればまだ見れるだろうか?
の手を取り、駆け出す。「ちょ、誠二?」と言って驚くのペースに合わせ、ココへ来たときよりはかなりスピードは落ちるが、歩くよりは断然はやい。
オレのペースになんて合わせられるのは、同じサッカー部の数人だけだろう。
「どこ行くの?」というの問いかけに、着いたらわかる!と笑顔で返す。その答えに、は不満そうだったがそれでも走る足は止めなかった。
「うあー!間に合わなかった!」
ソコに着いたときにはすでに辺りは薄暗く、夕日は完全に沈んでいた。見せたかった夕日が見せられずに、とても残念だ。
膝に手をつき、呼吸を整えているに、間に合わなかったとお詫びをする。「なにが?」と尋ねてくるの額にはうっすら汗がにじんでいた。
に会うまでのいきさつと夕日のきれいさを身振り手振りで感動が伝わるように話した。にどれくらいオレが感じたものが伝わったかはわからないけれど、が嬉しそうな表情をしているからソレで良しとしよう。
あー見せたかったな。やっぱり見るのが一番だ。と背伸びをするように空を見上げると、今度は星が瞬いていた。
「!夕日もきれいだったけど、星もきれいだ!」
「あ、ほんとだー!私星すきだよ。特に一番星」
「アレは一等星だよ」とが指差す星を見上げる。一等星?理科の授業で聞いたことがあるような、ないような気がする。
「一番明るく光ってる星を一等星っていうんだよ」そんなことも知らないのー?とバカにされて笑われても、になら怒りなんか込み上げてこないのは、惚れこんでいるからだろうか。
一番明るく光ってる星が一等星だということは頭にちゃんとインプットされたと思う。これから空を見上げて、一等星を見つける度に今日のことを思い出すだろう。
「流れ星落ちないかなー」
「そう簡単に見れるものじゃないだろ!」
「最近見てない!最近こうやって星を見てない」
「オレなんてこうやって空見上げた記憶がここ数年ない!」
きっと、傍からみたらオレらは怪しいカップルだ。丘の上で空を見上げ、星を指差し、騒ぎあい、笑いあっている。
半分くらいなんで笑ってるのかがわからないものもある。そんなのノリだ。高校生はノリだけで笑えるんだ。大人にはわからない感情だ。
は相変わらず空を見上げていて、まだ流れ星を諦めていないようだった。なにをお願いするのだろう、と興味がわいてくる。聞かずにいられなのが自分の性格だとわかっている。
「流れ星見っけたらなにお願いすんの?」
「なにしようかなー」
「え、考えてなかったのに流れ星待ってんの!?」
「うん。なんかさ、見たいじゃん!流れ星なんて滅多に見れないし、なんか奇跡が起こる予感するじゃん」
そう興奮気味に「奇跡はあるんだよ!」と言うの目は輝いていた。奇跡、ねえ。あると思うよ、オレも。
特にスポーツをやってる人ならミラクルだ!とか奇跡が起きた!とか騒ぐことが多いし、スポーツ新聞でもよくその言葉を目にする。そのたびに、そんなに奇跡って起こるのかよ。って思っていた。
奇跡の意味がないんじゃないかって。でも、が言っているのはそんな安っぽい奇跡じゃないと思った。本当の奇跡だ。
不意にの手とオレの手がぶつかった。冷たかった。の右手を取って、手をつなぐ。やっぱり、冷たい。オレの手はよりは温かい。
「誠二の手、あったか」とオレの左手をは両手で包み込んだ。実際、オレらはもう奇跡に出逢っているのかもしれない。と出逢って、両想いになれて、こうやって付き合っていて。
両想いになれることが奇跡だー!と誰かが叫んでいたのは最近だと思う。そうだ、もうオレらは奇跡を起こしている。
「!もう1つ奇跡起こそう!」
「もう1つ?なにか起こしたっけ?」
「1つ目はオレらがこうやって付き合ってること!」
「あーなるほど。で、2つ目は?」
「ひとつになろう!」
に上手く意味が伝わっていないらしい。首を傾げてはてなマークを飛ばしている。いつしかは空を見上げているのをやめていた。
今、この瞬間に流れ星が落ちたら、はどういう反応をするだろうかと考えるも、目の前にいるを見つめれば、説明しなきゃ!と思い、先ほどの言葉の上手い説明文章を考える。
「簡単にいえば、結婚しようってこと!」
そういうと「あー!結婚ね!ひとつになろう!って誠二らしいねー」と笑って丘を降りはじめた。手を繋いだままだったから、オレはに連れて行かれるまま一緒に丘を降りる。
もっと素敵な台詞の方がよかったかな?でも、オレらしいって言ってくれたから、らしさが出たからよかったんじゃないかな?とグルグルといろんなことを考える。今日は頭をたくさん使った日だ。
「誠二といたら、奇跡、いっぱい起きそうだね!」
オレはソレを自分の中で良い様に解釈し、を抱きしめた。おっしゃー!!と叫ぶと「誠二。近所迷惑」といってぺシッと頭を叩かれる。全然痛くなんかない。
今のオレに痛みなんて通用しない。三上先輩のキックだってオレは耐えられる自信がある!
オレにとっては今日も奇跡が起きたかもしれない!
一番星見つけた
(結局いっぱい奇跡起きてるや!)
071012 家長碧華
(シュノーケル/奇跡)
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