これはとまだ付き合う前の話。まだには彼女はいな…いたか。いました。 そしてには勿論彼女はいなかったです。好きなやつくらい居たかもしれないけど。





ひゅーひゅー





まだ俺らの席が固まってもいなかった。バラバラ過ぎるほど、バラバラだった。 俺は一番廊下側の一番前の席だったし、は一番窓側の一番後ろだったし(は2度も同じ席。しかも一番良いとこ!)はど真ん中。はどこだったかな…。

それに、まだバカ4人組とは呼ばれていなかった。バカ3人組だった。 がソレに入ってきたのは、俺らの席が固まった頃だ。 でも、もともと俺ら4人は仲が良かった。







「山口!一番前なのにお前よく寝ようとするな」
「昨日ユースの練習きつかったし、全然寝てないんで。今日も練習だし。それに授業わかんない」
「お前な…。今、ボスニア・ヘルツェゴビナについてやってんだぞ?ここテスト出るぞ?」
「ボスニアー…聞いたことならあります」
「どこから独立したかが重要なんだ。授業を聞いてたならわかるな」
「聞いてないのでわかりません」
「はぁ…。そうだなーオシムの出身地だな」
「あーユーゴスラビアか」
「山口はサッカーと連動させると頭良いのな」


そういうと世界史の先生はまた普通の授業に戻した。俺もオシムのとこの勉強か、と少し勘違いしつつもやる気を少しだけ出してみた。 今度はが先生の標的になったらしい。あいつは英語と世界史はほんとにダメなやつだ。いくら質問してもだめだって、先生。

だめだと観念したのか、他にも眠ってる奴を発見したのか、先生は標的を変えた。向けられたのは勿論だ。 の方を見ると(あいつは碧人と同じ列の一番後ろにいた)眠ってるわけではなかった。 授業では使われるはずのないノート(先生から配られるプリントを中心に授業をやっているからノートはいらない) を広げているのを見つかった。 あいつまた部活のメニュー考えてたのか?と心で思っていたら、眠ってる奴を発見した。だ。 日の光が気持ち良いのはわかる。見てても気持ち良さそうだ。

心の中で「起きろ。当てられるぞ」とに呼びかけてみた。でも、起きる素振りはまったくない。 あー…当てられる。と心配するがよーく考えてみればあいつは頭が良いんだ。学年首席だ。 なんだ心配しなくていいじゃん。寝ててもいいじゃん。…ムカツクな、あいつ!

授業は相変わらずボスニア・ヘルツェゴビナの歴史をやってるわけで。 オシムが関わってるからといって、この授業を受けても日本代表に呼ばれることなんてないのに、何故かここで寝たらだめな気がした。 だから俺は頑張ってボスニア・ヘルツェゴビナについてありったけの情報を頭に詰め込んだ。きっとテストはばっちりだ。




「圭介、今日もユースの練習?」
「おー。練習ー」
「じゃ、途中まで一緒に帰ろう」
は?」
は部活。は彼女とデートだってー」
「そーか。んじゃ、行くか」


練習場へ行く方向との家がある方向が同じだということを最近知った俺たちは練習がある日は一緒に帰ることが決まりみたいになっていた。 俺の方が先に降りるけれど、の降りる駅はその2つ後。ほとんど同じだ。

俺は練習に行く楽しみが1つ増えた。もともとはサッカーをやりに行くという楽しみ。 そして、練習場までと一緒に行けるという些細だけど大きな楽しみ。俺は本当にがすきらしい。ということを練習日に毎回感じる。

最初は付き合ってるわけでもないから、一緒に帰ってる(俺は練習場へ向かってる)のを付き合ってると勘違いされて変な噂が立ったりもした。 が困ると思って、勿論違うと主張した。クラスの奴らはわかってくれたけれど全校生徒相手は無理だ。


「付き合わないと一緒に帰っちゃダメってわけじゃないんだから。気にすることないんじゃない? 私が圭介と帰りたいだけだもん。圭介が迷惑なら別々に帰ろう?」
「俺?迷惑なんて思ってないけど。つーか誰だよ。そんな噂を流した奴は」
「圭介が有名過ぎるからいけないんだ!普通の生徒ならこんな噂には…」
「俺のせいか!?俺のせいなのか!?」
「まー半分ホントだけど、仕方ないよ。仕方ない、仕方ない」


「仕方ない」で片付けられてしまった。でも、そんな噂が立った後でも俺らは一緒に帰ってる。 手繋いでるわけじゃないんだ。付き合いたいけど、付き合ってねぇんだ!外野は温かく見守っててくれ!


「じゃ、気をつけて帰れよ」
「うん。圭介も練習頑張ってね」
「おぅ」


駅のホームに降りて、後ろを振り返ればが笑顔でこっちを見てるんだ。知ってるけど、なんだか照れくさくて振り返れないんだ。 正式に付き合えるようになったら、振り返ってみようと思う。










「圭介、帰ろう!」
「おー。んじゃ、またな。
「またなー」
「練習頑張れよ」


あれから俺とは付き合うことになって、今は手を繋いで一緒に帰れてる訳で。 勿論、駅のホームに降りたら振り返ることも忘れてない。


「すきだぜ」


声には出さず、ドア越しに、口パクで。 気付いたときのの表情が忘れられなくて、練習中に何度もチームメイトに冷やかされたのは学校の奴らには内緒。


「コーチー!山口がキモイでーす!」
「どうした山口!お前はイチバン人気なんだぞ」
「いーえ、キモクないでーす!」







070313 家長碧華