最近、部活が終わると文化委員長をしているを迎えに生徒会室に行くのが当たり前になってきた。

の方が先に終っていたり、都合が悪かったりするときは[ごめんね、先に帰ってる]とメールがきているが、 メールがないときは必ず生徒会室に迎えに行っていた。

今日もメールが来ていなかったから野球部の仲間に別れを告げ、生徒会室に向かった。

文化祭が近づいているから、生徒会メンバーがピリピリしているとがボソッともらしていた。

もイライラしたり不安がったりしているのが見て分かるときがあった。

勿論、生徒会活動は楽しい事の方が多いし、やりがいがある仕事だということも何度も言われてわかっているから、 俺は生徒会内のいざこざの話を聞いてやる事くらいしか出来ないのだ。


ガラス張りの生徒会室を覗くと生徒会長と以外は誰も居なかった。ドアをノックをする。いつもなら俺だとわかるとは真っ先に飛んでくる。

「犬か、は」と会長の五十嵐(俺とと同じクラスで結構仲が良い)が笑っていた。

でも、今日は違った。ノックをしても反応しなかったから、ドアを開けて「」と呼んだ。


「部活終った。帰れるか?」

「仕事終ってないから帰れない」


俺の顔すら見ずに、プリントにシャーペンを走らせ、何かを書いているようだった。

イライラしているのは明らかだった。言葉からが感じられない。

こんな刺々しい言われ方は滅多にない。こりゃ、なんかあったな。


「五十嵐ー。こいつ引き取るわ」

「ちょっと、隆也!終ってないんだって!」


そこでは初めて俺の方を向いた。相当、切羽詰ってるな。

五十嵐はパソコンでなにかプリントを作っている様子だった。キーボードを無言で打っている。


「引き取って構わないぜ」


そう言って、椅子から立ち上がり、大きく背伸びをした。

プリンターが動き出し、大きな音を立てながら印刷されて、1枚の紙が出てきた。

それを取ると、五十嵐は自分の席に着き、内容を確認している。


「会長、終ってないんだってば!」

「そうか?じゃ、明日の委員会用のプリントは?」

「ここにある」

「委員を呼ぶ召集状は?」

「担任の先生方に渡してきた」

「委員会予告の掲示は?」

が帰り際に貼ってくれるって言って、持って行ってくれた」

「うん、やることないだろ。帰れよ」

「でも・・・」


シャーペンを握りしめ、さっきまで書いていたプリントを見つめるように俯く。

きっと、何かやっていないと不安なのだろう。文化委員長のにとって、文化祭は一番大きな仕事だ。

そして、楽しみにしている生徒が多いのも事実。プレッシャーを感じているのかもしれない。


「つーことだから阿部!文化委員長のお仕事は完璧に終っております。お送りして下さい」

「了解。悪いな、五十嵐」


の荷物をカバンにしまい、チャックをしめる。はまだプリントを見つめていた。

自分のエナメルバックは肩から下げ、のカバンは手で持ち生徒会室から出る。


「ほら、帰るぞ。五十嵐、悪かったな。お前も早く帰れよ」

「おー。サンキュー」


五十嵐は多分、いつまでも帰らないに何も言わずに付き合って残って自分の仕事をしていたはずだ。

会長は会長で忙しいらしいが、自分だって早く帰って休みたいだろう。感謝だ。


「じゃ・・・先に帰るね」

「おー。気を付けて帰れよーって阿部がいるんだもんな。安心だな」


生徒会室から出ると少し落ち着いたのか、カバンを持つ、と言い張るのでカバンを渡す。

そして、手を繋ぎたいと言う。いつもは言わずに勝手に手を繋ぎだすのに、わざわざ言うときは甘えたい時の証拠だ。

の小さな手を握りしめる。夏にもかかわらず、冷たくて驚いた。

玄関に着き、靴を履き替えて、校門を出るまでずっと無言だった。

少しずつの手が暖かくなってきた頃、小さな声で喋り出した。


「何かさ・・・もう、よくわかんないんだ」

「ん」

「やる事多いし、全部私に来るし。いっぱい、いっぱいなんだよね」


目にたくさんの涙をため込んで、少しずつ吐き出す言葉に耳を傾ける。

瞬きを一つすると、涙がこぼれて頬を伝った。夜道を照らす街灯が涙の跡を照らして、光っている。

生徒会の中で吐き出す事が出来ないから、こんなには弱ってしまっていて、俺が聞く事での不安が取り除けるのならばいくらでも聞こう。


「他に何を頑張ればいいのかな」

「充分頑張ってんだろ。もう無理すんな」


訳が分からず泣いている彼女を思わず抱きしめた。こんな小さな身体で精一杯頑張っているのに、これ以上負担を掛けようとしている。

誰がこんなにを追い込んだのか。何で俺はもっと早くに気付いてやらなかったのか。

自分にも腹が立ってきた。


「溜めてるもん、全部出せ。落ち着くまで一緒に居てやるから」

「ありがと、隆也」


少し力を込めれば、壊れてしまいそうな身体をもう一度抱きしめると、は声を抑えて泣いた。

文化祭まで残り2週間ほど。がいつもの笑顔を取り戻せるなら、文化祭なんてなくなってしまえと思った。





聞こえない叫び声





070722 家長碧華(151102改)
 タイトル提供:てぃんがぁら