「阿部くんってキャッチャーのイメージじゃない」
「あ、わかる!阿部くん細いから」
私だってキャッチャーのイメージは体が大きくて、がっちりした体型だ。
でも、プロの世界を見てみるとそうでもない。
だから、隆也が細くてもキャッチャーなのだ。
キャッチャーに必要なものは体格より頭脳だと私は思っている。
バッターに対する記憶力は相当なものだ。
それを軽々とやってしまう隆也は凄い。
私なんかには全然無理だ。観戦しているだけでも無理なのに、隆也は実際に野球をやっている。
「あ、隆也」
「はやいな、クラスに戻るの」
「宿題やり忘れたから」
うん、やっぱり隆也は細い。
学校にはもっとがっちりしたのが結構いる。
「なに見てんだよ・・・」
「隆也はキャッチャーってイメージじゃないって隣のクラスの子が言ってた。細いって」
「なんだよそれ。キャッチャーに必要なのは肩だろ」
「肩なの!?」
「なんだと思ってたんだよ?」
「頭脳」
「外れちゃいねぇな」
エナメルバックを床に置き、席に着く。
私の隣の席に。
今日野球部は朝練だった。
もちろん、マネージャーの私も参加している。
隆也が片手で口をおさえて欠伸をしている。
こっちにまで欠伸がうつってきた。
あわてて両手で口をおさえる。
「ねみぃな・・・」
「めっちゃ眠い・・・」
「一時間目ってなんだっけ」
「確か、日本史」
「オレ寝る」
朝のSHRの時点で隆也は凄く眠そうだった。
いつもの隆也からは想像のできないことだ。
笑顔だってあんまり見ないし(最近はちょくちょく見せてくれるようになったな!)、欠伸も・・・よく見るのは怒った顔(隆也に言ったら怒られる・・・!)
ポーカーフェイスなカレシを持つのも大変だ。
隆也をジッと見ていても気が付かない。
そんな隆也を見ているうちに次第に私の眠気は遠のいていった(だってかわいいんだもん・・・!)
一時間目の日本史に入るとすぐに隆也は眠りに落ちた。
朝練初日はキツイだろう。
生活のリズムが崩れるのだから。
机に左肘を置き頭を乗せ、器用に寝ている。
机には日本史の教科書はない。
ペンケースすらない。
先生への挑戦状をたたきつけているとしか思えない。
「新撰組の土方が〜」
昨日から日本史は私の一番すきな範囲、新撰組に入り昨日はいろいろな事をノートにメモした。
でも今日はそんなことはどうでもいい。
過去の出来事なんかに興味は湧かなかった。
今、隣で静かに眠っている人にしか興味はなかった。
隆也の寝顔が見れたのだ今日は良い事があるかも!と浮かれ、二時間目の数学で私も眠りに落ちた。
あなたが起きる頃、
私は夢の中
(も寝てんじゃねぇか。・・・ったく、幸せそうな顔しやがって)
070809 家長碧華(4周年記念フリー夢)