こんにちは、幸せという者です
「並び替えの問題は、まずはセットに出来る単語を探します」
三時間目の英語の時間。英語はクラスが2つに分かれるからポツポツと空いている席がある。
私の左隣には孝介がいる。孝介の方を見ると、孝介は窓の外を眺めていた。雲行きが見るからにあやしい。
「雨、くるね」
「部活は中だな」
夏の大会が迫っている野球部に休みなどない。きっと次の休み時間あたりに部活についてのメールが花井くんからくるだろう。
私は真面目に英語の授業をうけている。この範囲は難しくない。先生の解説の前にとくことができる。
ノートに答えを書いているとき、一瞬ピカッと空が光った。少し後にうなり声のような低い地響きが聞える。
「雷だー!」と田島くんが嬉しそうに叫ぶ。寝ていたクラスメートはこれで起きただろう。
窓から遠い田島くんは、雷を見ようと立ち上がっている。
窓の外を見る。また光った。肩がピクッと反応する。
「、雷こわいの?」
いつの間にか頬杖をついて私を見ていた。孝介は窓側の席だから、背景には黒い雲。一瞬光り、あの低い音が聞える。
そんなドラマじゃないんだから演出はやめてください。そこでにっこり笑われるとこわいです・・・!
いちいち光る度に反応する私の肩。別にこわいわけじゃない。びっくりするんだ。
「こわくはない。近くに落ちたらこわいけどさ」
「音が?」
「うん。近くに落ちたら音大きいし、長い気がする」
「今は?」
「大人数だとあんまりこわくない、かな。光る方がびっくりする」
ふーん、と孝介は再び空を見た。「近くに落ちねーかなぁ」と呟いたのがはっきりと私には聞えた。
「な、なんで!嫌だよ!」
「だからじゃん」
意味がわからない。ただのイジメっ子ですか?あなたはカノジョを苛めるのがすきなのですか?
考えても考えても答えが出てくるわけはなく、一人うなるように考えていたら孝介と目が合った。
「の弱いものオレ全然知らないし、カレシのオレとしてはに頼られたいし守りたいの」
これで2つ目、とVサインに指を立てる。
「1つ目は虫がきらいなこと」
と言って人差し指を曲げる。中指だけが立っている。
あ、指に傷がある。今日の朝練でできたのかな?このお話が終ったらバンソーコーをあげよう。
「そして、この雷」
孝介の手がグーになり傷が見えなくなった。近くに落ちた、だよと私は訂正した。
よくよく考えてみると、私凄い事言われたんじゃないかな。
孝介は照れ隠しなのか、私に反応する間すら与えなかったし。
「他にこわいもの、ないの?」
「あるよー。野球部の誰かが怪我した、とか」
「なんかそれ違う」
「あとはね、ホラー映画は無理だし、戦争とか血出るやつとか戦うのもいや」
「オレ、ホラーすきなのに」
「デートでホラーは許さないからね!」
「10回に1回くらいだな」
「ダメー!」
大きな声を出してハッとした。まだ授業中だったことを思い出した。
クラスを見回すとみんなの注目はまだ田島くんだった。誰も私たちを気にしている人はいない。
先生もだ。田島くんのおかげで助かった。
「他には?」
「ない」
私ばっかり聞かれるだなんて・・・と思い、今度はヒソヒソと孝介のこわいものは?と聞いてみた。
なにかにこわがる孝介は想像できないけれど。監督っていうのはまた別だけどね。
「 」
「え?聞えないよ、も1回言って?」
そう言った瞬間に孝介は英語のノートの端っこを破き始めた。
その切れ端になにか書いている。そんなに周りに聞かれたくないのだろうか。
丁寧に4つに折られて、私の机へ飛び込んできた。
“さえいればいい”
読み終えてすぐに孝介を見ると、孝介は前を向き、黒板に“テストに出る”とど派手に書かれているところだけを写している。
でもやっぱりその行為はただの照れ隠しなだけで、break into〜なのに、breake in to〜とめちゃめちゃだ。
孝介そこ違ってる、と笑って身を乗り出して、その問題の場所に指を置く。
やばい。自分からやったことなのにソレを後悔した。孝介の顔が近い。
あんな言葉を聞いた(正式には見た)後だ。2人とも顔が赤くなる。
なんとか元の体勢に戻り、孝介の男子としてはキレイな字の下に“一緒にいないとダメなのは私の方だよ”と書き、折り目の通り4つ降り
にし、孝介の机へ飛ばした。先生にはばれないように。
読んだ後の孝介の反応が楽しみだ。
070814 家長碧華