「オレ食ってねーし」
「いや、ガム食べてたでしょ」
武蔵野第一の体育祭は試合会場全てが飲食禁止。持ち込みも禁止。
だから常に目を光らせている生徒会は生徒からみれば鬼なのだ。
生徒会だって生徒を取り締まりたいわけではない。仕方のないことなんだ!
そして、やっぱり見つけた。ガムを食べている人を発見。元希だ。
榛名元希がガムを食べている。(よりにもよって元希だなんて・・・!)
もちろん私は警告しようと元希の方へ向かっていった。
はむかってくるだろうな、という予想はできていた。
「そんなの知らないし」
「飲んだでしょ!今ガム飲んだでしょ!」
「うっせーな、は」
「・・・警告だかんね!次やったら失格にするからね!」
「はいはい」
頭をぼりぼりとかきながら体育館を出ていった。バスケで誰かがゴールを決めたのだろう、観客の声が大きくなる。
耳は大声援を聞いているのに、頭ではさっきのやり取りがエンドレスで続いている。
なんなんだ、あのふてぶてしい態度は・・・!ムカツク・・・!!ホントムカツク!!
なんで私はあんな奴をすきになったんだろう、と自分自身に落ち込んだ。
理想のタイプは優しくて一緒にいて楽な人、背が高ければなお良し!
料理ができれば文句なし!元希なんて背が高い以外当てはまってないのに。
本当恋っていうのはやっかいだ、と体育祭に全く合わないことを考えていた。
それから数分後、今度は元希から寄ってきた。
口は動いていない。ガムは、食べてない。
「オレのゼッケンしらね?」
「なくしたの?」
「どっかいったんだよなー・・・」
「わかんないなぁ。落し物は届いてないよ」
裾を少し折っている長ジャージのポケットに両手をいれて落としそうな場所を思い出しているようだった。
どこで落としたの。教室に置いてるんじゃないのかな?
ゼッケンがないと試合に出られないルールになっているから、なくしたとなれば大変だ。
なのに、当の本人は焦る様子もなく、教室は行ってねーし・・・と独り言にしては大きすぎる声でまだ思い出せないでいる。
「ん、サンキュ」
パッと両手をポケットから取り出して、ニィッと笑って走り出した。
落としそうな場所を見つけたのだろうか。走ってさっていく元希の背中をジッと追っていた。
体育館に生徒はたくさんいるが、その背中だけははっきりと見えていた(と思う)
「え、がお・・・」
今までムカツク!と思っていた気持ちはその笑顔で吹き飛んだ。
私ってばすごい単純かもしれないと思った体育祭1日目。
ずるいなと思って
070921 家長碧華
タイトル:てぃんがぁら様