「おつかれー」
「おぅ、おつかれ」
「、帰るぞー」
「うん!千代、バイバイ!」
「バイバイ、ちゃん!」
勇人もみんなにあいさつを言って、フェンスをくぐる。そのトビラを開けたままで待っていてくれてる。
お礼を言って私もフェンスをくぐる。ガシャンとトビラが閉まり「行こうか」と私の手をとってゆっくりと歩き始める。
向かう先は自転車置き場。
「カバンのせるよ?」
「危ないからいいよ!背負う!」
すでにカゴには勇人のエナメルバックが入っている。私の学バンはいつもその上にのせられる。
全部入りきっていないから、大きな振動があれば私のカバンは飛び跳ねて、勇人は自転車を漕ぎながら片手でカバンを直す。
危ないよという私の言葉に勇人はいつも「大丈夫、大丈夫」と笑ってこたえる。
今日もそうだった。慣れてきた勇人はカバンが飛び跳ねる場所を覚えたようで、飛び跳ねる前に手をカバンにのせ押さえている。
「ー」
「なに?」
「今日オレ汗くさいからあんまりくっつかない方がいいよ?」
「あつかったなー今日は」となぜか笑顔で言う。
私の腕が勇人の腰に回って、かれこれ数分は経っている。そんなこと今更だ。
私だって汗くさいんじゃないかな。お互い様、というわけだ。
「勇人はそんなに感じないけど」
「そう?今も汗かいてるけど」
勇人の背中におでこをくっつける。あつい。確かに背中に汗をかいている。
おでこをはがすと、背中にワイシャツがくっついている。汗をすいとったらしい。
「勇人の汗のにおいは野球のにおいだよ」
高校球児にしか許されない事だよ?三年間しか流せない汗だよ。
だから私は勇人にくっつきたい。そういってぎゅっと腰に抱きついた。
「アレ、勇人ここどこ?」
「がかわいいこというから遠回りしちゃった」
「・・・疲れるのは勇人なんだよ?」
「のために疲れるのはイヤじゃないからさ」
バカだな勇人は。マネージャーの私が大事なセカンドを疲れさせたらいけないのに。
彼女としての嬉しさがマネージャーとしての選手を労わる気持ちを上回ってしまって、ストップの言葉はかけられない。
あー・・・千代ごめんなさい。と心の中で謝った。
私の家について、私が降りた後、何故か勇人も一度自転車を降りる。差し出されたカバンをお礼を言って受け取る。
遠回りをして帰って来たはずなのに勇人の後ろに乗っていたのは、いつもより短い気がする。
普通に考えたら、いつもより結構長いのに。
「今日は早く寝ろよー。授業中欠伸ばっかしてたしょ」
「だってさー勇人についての疑問考えてたら寝れなくて」
「オレについて?例えば?」
「なんで勇人は今自転車から降りるのか。乗ったままでもおしゃべりはできるよ?」
でも、その答えは出たんだ。私が考えたんだ。というと「どんなの?」と嬉しそうに私の答えを待っている。
私は一歩前に出て背伸びをし、勇人の唇に軽いキスをした。勇人はびっくりして、小さな声で私の名前を呼ぶ。
「自転車から降りた方がキスしやすいんだと思ったの」
「じゃオレが毎回自転車から降りたらキスしてくれる?」
「・・・遠回りしてくれた日にはしてあげる」
「毎日遠回りだなー」
「ほら、はやく家ン中入って休んで」と促される。休みが必要なのは勇人の方なのに。
初めて家まで送ってくれたときに“が家に入るまで帰れない”と言われた。
だから私は勇人を最後まで見送れない。早く帰らせてあげなきゃという思いで家へ入る。
「気をつけて帰ってね」
「ありがと。おやすみー」
「うん、おやすみ」
ドアを開け家へ入る。閉めて約1分後、静かにドアを開けてみる。
勇人の姿はない。道を見てみると、かろうじて見える勇人の背中。
その背中に声をかけたいけれど、驚いて振り向かれて転んだら大変だ。
それこそ、マネージャーとして失格なわけで、謝っても謝りきれないと思い踏みとどまった。
私が初めて最後まで見送る事が出来た日の空は、星がたくさん輝いていた。
その言葉の意味に気付けたなら
071002 家長碧華
タイトル:てぃんがぁら様