「なんか唇に違和感があるんだよね」
「どこだよー?」
「ここー」



今日、朝起きたときから左側の下唇に違和感を感じていた。それは過去形ではなく、現在進行形で、すごく、すごく気になって仕方がない。 ソコだけマヒしているような感覚で、こんなことは人生で初めてだ。どう対処していいのかわからない。 「どれ、どれ」と悠一郎の顔が段々近づいてくる。唇に違和感ではなく悠一郎の唇を感じる。 一瞬なにがなんだかわからなくて、自分がどこにいるのかを冷静に考えると恥ずかしくてたまらなくなった。 だが、悠一郎はそんなことはまったく気にしてないようで、珍しく眉間にしわを寄せて腕を組んで立っている。



「んー?変じゃねーぞ?」
「い、いや!こ、ここ、ここは教室だよ!一番後ろの席だからといって・・・!」
「だれも見てねーよ!」



周りをキョロキョロと確認してみる。あ、泉くん寝てる。朝練すごい動いてたもんね。声も出てたし、放課後の部活までに充電中かな。 それに比べて、三橋くんは元気だなー。あんだけ朝走りこみしてたのに、浜ちゃんとなんだか楽しそうにしゃべってるよ。 「見た目も変じゃないけどなー?」と心配そうな声を出す悠一郎に視線を戻す。 またキスされそうなほど、近づいてきたから、私はあわてて、大丈夫っ!と言ってカバンからリップクリームを探す。 カバンの小分けのきく便利なポケットに入ってるはずだ。普段はあまり使うこともないリップクリームだけれど、見た目が可愛いからと、まだまだ残っていても新しいのを買ってしまうから、カバンに2つほど入っていると思う。 ポケットを見るとやっぱり2つ入っていた。グリーンアップルのいい匂いのするほうを取り出し、唇にぬる。



「リップつけて過ごしてみるからさ」
「休み時間ごとに確認しにくっからな!」



「毎日、休み時間はンとこだけど!」と言い残し、チャイムが鳴ったにも関わらずバタバタと三橋くんと浜ちゃんのところへ向かっていった。 ちなみに、悠一郎の席は三橋くんの席とは、かけ離れた場所にある。先生が教室に入ってから、またバタバタと自分の席に戻るのはいつもの光景だ。 「あ!三橋ソレなに!」悠一郎の声はどこにいても聞える。 ソレの答えを出す三橋くんの声が聞き取れなくて、ソレってなに・・・!と心がモヤモヤしてるときに「浜田が作ったのかー!すげー!」という悠一郎の声がまた聞えた。 ああ、浜ちゃんまたなにか作ったんだ。私もなにか作ったらああやって悠一郎は目を輝かせてくれるのかな、男の浜ちゃんに嫉妬だなんてありえないよなーと苦笑する。 それよりも今は自分のこの変になった唇を治すことを最優先に考えよう。



「お前随分嬉しそうだなー」
「にひひ。とキスしてきた!」
「あーハイ、ハイ」
「くちびる変っていうからさー見るより確かめた方がはやいと思って!」



浜ちゃんに全てを話してる悠一郎の声は、きっと浜ちゃんと三橋くん以外にも聞えたはずだ。 「だれも見てねーよ!」って自信満々に言っておいて、大声で言ったら意味ないでしょ!と心の中で悠一郎へ文句を言うも、耳は熱を持ってあつい。きっと赤い。 次の休み時間のとき、まだ変って言ったらキスかな!治ったってウソをついたらどうなるかな・・・と必死で思考回路をめぐらす。 バレちゃう?私ウソつくの下手らしいからなー・・・。どうしよ、どうしよ、と一人慌てていたらなんとなく視線を感じ、なんとなく悠一郎の方へ目を向けた。 浜ちゃんがこっちを笑いながら見ていた。は、はは恥ずかしいから、こちらを見ないで頂きたいんですけど!なんて大声で言えるハズもなく、丁度良く「席に着けー」と教室に入ってきた先生に心から感謝した。





# # # # #





「どうだー!くちびるー!」
「な、治ったよっ!!」



結局、本当は治ってくれなくて私は一か八かウソをついてみた。バレるかな、とすごい心臓がドキドキしている。 「ほんとうかー?」と今度は顔ではなく手が近づいてきた。さわったらリップつくよ!と言うのも間に合わず、悠一郎の骨ばった指が私の唇にふれる。 なにかしゃべったら指が口の中に入るんじゃないかと思って、じっと黙って悠一郎の答えを待っていた。 バレないか、のドキドキから、悠一郎にふれられている、というドキドキへと、いつの間にかかわっていた。



「うそだな!」



嬉しそうに、ハッキリとそう言った。そう言った瞬間指が離れ、再び唇が合わさる。 さっきの休み時間よりも長かったような気がした。周りなんて気にしていなくて、今回も誰にも見られてませんように!とただ祈った。 悠一郎の顔が離れた後、浜ちゃんと泉くんがこっちを見ているのに気付き、顔が赤くなる。(泉くんこの時間も寝ててくれて良かったのに!!) 悠一郎がソレに気付き、「あー!なにお前ら見てんだよ!!」とあの大声で言うと、「目に入ったから!」と泉くんも大声で返してきた。 空いていた私の前の席のイスにドカッと座り、「ごめん。見られちゃった」と申し訳無さそうなんだけれど、少し嬉しそうな表情で謝られた。 悠一郎の性格をよくわかってくれてる、あの二人なら仕方ない。と言えば、きっと調子の乗ってなにをしでかすかわからないから、口には出さず、もうダメっ!と強く言った。 「ちぇー・・・」とつまんなさそうにうなだれている悠一郎に苦笑いしつつ、再びリップクリームをぬる。この違和感本当にいやだな。はやく治らないからと念をこめて何度もリップクリームをぬった。





赤い唇
(なんだ田島?元気ねえぞ?)(もうダメって言われた)(・・・だろうなー)





071016(Happy Birthday Tajima!) 家長碧華
  タイトル提供:てぃんがぁら