今の私のお気に入りの曲は悠一郎が打席に入ったときに流れる応援歌だ。桐青戦を観に行って、それから頭から離れない。

家でも学校の休み時間でも移動してるときでも無意識に口ずさんでいる。ホントに無意識だ。授業中は注意されてないから大丈夫だよね?無意識って恐いよねー!気を付けられないもん。

お昼の時間になって、悠一郎が「購買行くけどどうする?行くかー?」と聞かれ特に用もないけど頷いた。毎日の様に早弁して、今日は購買でパンを買うらしい。小さいのによく入るなあ。 ソレでなんでそんなに細いんだろう。やっぱ運動しなきゃダメなんだね。今の男の子って細くないですか!?下手すれば女の子より細い男の子いるでしょ!?なんだろう、私はなんだろう。 最近Wii fitを買ってから毎日、筋トレとヨガをやって痩せてきたけど・・・絶対悠一郎の方が体重軽いー!

ソレは今後の私の努力次第として、頑張ります。そんな事を考えながら購買までの道のりを歩いていても悠一郎は人気だ。というか顔が広いんだ。色んな人に話しかけられる。 今は(多分購買に早く行きたいから)殆どが「よ、田島じゃん!」「おー!またなー!」で終わりだ。足が止まる事はない。

購買はたくさんの生徒が戦っていた。うわーすご。と見ていたら悠一郎に手を掴まれソノ中へ入っていく。え、私買うモノないよ!?そこら辺で待ってる!



「今日じーちゃんがお小遣いくれたんだよ。のすきなもんなんか買ってやるよ!」
「えーいいよー。悠一郎が部活後のご飯代とかに使いよな」
「いいんだって!焼きプリン買うぞ」
「え、いいって!」
「おばちゃん、ジャムパンと焼きプリンちょうだい!」
「はいよー。部活頑張ってね」
「ありがとう!」



お財布からお金を出して、しまう以外はずっと手が繋がったままだった。購買のおばちゃんとも仲良いんだ。そういえば悠一郎と購買に来たの初めてかもしれない。 購買に来ることが殆ど無い私を心配して、ずっと手を繋いでてくれたのかな?

「はいッ!」と焼きプリンとスプーンを差し出される。「ありがとーございますッ!」と素直に受け取った。だって、買っちゃったしね。ココに来るまで「体重やばい」とか思ってたのに焼きプリンなんて・・・! 悠一郎にも食べてもらおう。嫌いじゃなかったはずだから。

教室へ戻るときも何故か手は繋がれたままで、もう一つの手には大すきな焼きプリン。テンションが上がらないはずがない。



「今、歌ってたのオレの打席になったら流れる曲ッ!」
「よくわかったね?悠一郎の集中ってすごいから、聞えてないと思ってた」
「いや、意外と聞えてるかも。バッターボックスに入る前とかは聞えてるし」
「じゃ、どこから聞えないの?」
「ピッチャーがサインに頷く辺りかな」



ちゃんと自分でスイッチを入れるポイントがあるんだなあと感心する。ソレもピッチャーのソノ一瞬の動作によって。天才って呼ばれる人はやっぱりすごいんだ!凡才の私には全くわかんないよ、悠一郎くん!

教室に着いて泉くんたちに混ぜてもらってご飯を食べた。焼きプリンは最後に食べよう。食後のデザートがあるだけで私のテンションは急上昇。浜ちゃんに笑われた。それでも、いいんだ。そんなの関係ねえ! (もう流行過ぎ去ったとか言わない!!)お弁当を開けるときに私はまた鼻唄を歌っていたらしい。ソレも悠一郎じゃない誰かの応援歌を。



ソノ曲誰の応援歌?」
「え?誰のだろう?私悠一郎のしか覚えなかったや。浜ちゃんならわかるじゃん!誰の応援歌?」
「さっきのはー阿部の応援歌だな」
「阿部くんか。コレもすきだな」



いただきます。と言っておかずを一口。今日も冷凍食品は入ってない!浜ちゃんが「今度それぞれの応援歌教えてあげようか?」と言ってくれた。応援団長さんと仲が良いって得だな! 私はありがとう!と笑って頷くと悠一郎が「そんなの別にいいよ」と冷たく言い放った。いつもの悠一郎じゃない。三橋くんがビビッてキョドッている。 泉くんは悠一郎を凝視してるし、浜ちゃんはなんか変なポーズを取っている(みなさんのご想像にお任せします)

そう言い放った本人は恐い顔のままさっき買ったジャムパンを頬張っている。果敢にも泉くんが「なにが別にいいんだよ?」と問う。流石泉くん!この中で頼りになるのは泉くんだよ! ソレに対し悠一郎はジャムパンを飲み干して答えた。



「オレ以外の応援歌をが歌ってるとムカつくから」
「ソレ、嫉妬って言うんだぞ」
「ソレぐらい知ってるよ」
「良かったなー。お前は充分すぎるほど愛されてんぞー」



そう泉くんに言われて恥ずかしくなる。嬉しくもなる。私はソレを隠すようにごはんを一口。三橋くんも浜ちゃんも元に戻っていた。そして泉くんが続けた。



「かわいそうなのはオレらだよ。他校の応援歌を歌われたら田島みたいになるかもしれねえけど、オレら同じ学校のやつのも許してくれねえんだもん。オレと三橋なんてクラスメートでもあるんだぞ?」
「・・・うーん。じゃ、泉と三橋の応援歌は歌っても良いけど、ソレ以外はこれから考えるッ!」



そう叫んで最後の一口を口に詰め込んだ。「ごちそうさま」がちゃんと聞えない。ちゃんと飲み込んでからでいいのに。 「これから田島の許可がおりるまで阿部の応援歌は歌わないほうがいいぞ」とコソッと浜ちゃんが言う。おかずを口に含んだまま二度頷く。無意識だからと言うのはもうダメだな。 むしろ無意識で阿部くんの応援歌を歌う方が危険かもしれない。



はオレだけ応援してればいい!」
「だから、せめて西浦にまで広げてくれよ」
「ソノ分、オレが頑張ればいいじゃん」
「悠一郎ッ!」



なんかまた恐い悠一郎になりそうだったから割り込んで泉くんとのはなしを止めた。そして、思った事を素直に告げた。悠一郎のことはいつも精一杯応援してること。でも、西浦のみんなも応援してること。 みんなに対しては悠一郎に対して想ってるような感情は抱いてないし、悠一郎がそうやって言ってくれるのは恥ずかしいけど嬉しかったことも。

全部伝え終わると「だよなッ!」と笑って「野球は一人でやるもんじゃないし・・・泉ごめん!」と頭を下げた。泉くんも別に謝ってほしくて言ったわけじゃないらしく笑って許してくれた。 悠一郎はなんでイチバン大事なものを忘れちゃうのかな。もーバカだ。

お昼時間が終わる頃には、浜ちゃんが本番のように指揮を取り、西浦メンバー全員の応援歌を1番から順に5人で歌った。「この曲のときに〜がヒットして私鳥肌だったよ」 「あーアレは塁にいたオレもやばかった」だとは結構試合を振り返ってみたりもしながら。



「次もオレ、打つからなッ!」



そう意気込む悠一郎にはまず手をちゃんと治してほしいな。だって悠一郎は西浦の核だもんね。





確かだと知っているから安心して
 (完治はしなくても、結果は出すのが悠一郎だ)





080207 家長碧華
 タイトル提供:as far as I know