なにかを得るためにはなにかを捨てなければならない。なんて言葉を聞いたことはあっても、そんなのありえねえと思っていた。オレはなにも捨てずに全部拾うんだと意気込んでいた。
それは遠い昔のように思えてきて、その頃のオレは若さゆえにという言葉がピッタリだった。
高校を卒業してプロに入って、オレは高卒ルーキーとして活躍した。出場2試合目では、アシストを記録。5試合目でゴールをあげた。
それからもスタメン定着とはいかないもののスーパーサブとしてコンスタントに試合に出してもらった。プロ入り1年目は7ゴールをあげるという活躍ぶりで終わり、2年目、3年目・・・と過ぎていった。
今は5年目だ。チームの中ではそんなに若くない年で(24歳だから、普通は若いんだけど・・・)オレらの世代がチームの核になっていることが多い。
プロに入ってからすきな人もできた、彼女ができた。女優さんとかとは付き合ったことはない。なんだか、媚を売られてる気分になって一緒に食事をするのもいやだった。だから、そういう機会も極力避けてきた。
先輩たちに「お前人気あんだぞー」と言われても、そんなことないッスよー。と笑って誤魔化した。オレには地元に住んでる彼女がいる。とはその先輩たちに話したことはない。
「オファー、ですか」
リーグ戦も中盤に差し掛かってきたとき監督から海外チームのオファーがオレに来ていると知らされた。フランスリーグのチームだ。2部へ降格が迫ってきているらしく、オレの得点能力の高さが買われたらしい。
すぐにでも来てくれとのことだった。この内容からいくと即戦力として使ってもらえそうだ。フランスの遠い地にまでオレの活躍を見てくれている人がいて、高く評価してもらえたことは素直に嬉しかった。
でも、オレにはがいて、結婚してないにしろが本当にすきだった。どれくらいで日本に戻ってくるのかはわからないし、出来るならばオレは海外の方でずっとプレーしていたいと思う。
サッカーをやっていれば、そう思うのは当然でオレは後一歩で夢が叶うとこまできているんだ。
彼女としてフランスまで連れて行くっていうのはオレには気が引けてできない。なら、結婚すればいいじゃないか。フランスに連れて行くというだけの口実のために結婚するなんていやだ。
もっと、ちゃんとプロポーズをしたい。
監督は「じっくり考えた方がいい」と肩を叩かれソノはなしは終わった。
車を家に向かわせる間もオファーのことばかり考えていた。家に帰ったらまずに電話しよう。
反射するテールランプ
(もし、別れ話になったとしても)
080302 家長碧華
(BUMP OF CHICKEN/同じドアをくぐれたら/凛さんリク)
タイトル提供:vague