「夕日だよー巧」
「あーそうだな」
「キレイだー!」



豪たちとキャッチボールをし、を自転車の後ろに乗せ帰り道をこいでいる。横乗りのはさっきから「夕日がキレー!」とか「オレンジ!今日のオレンジはキレイ!」とか叫んでいる。 風を受けて少し寒い。でも、背中からのあたたかさを感じていた。



、今日遠回りしていい?」
「え?なんで?」
「・・・なんとなく」
「変な巧。いいよー遠回りしても」



いつもは真っ直ぐ行く道を右に曲がる。右に曲がればいつものランニングコースの途中に出る。はこの道を知らないらしい。「どこに出るの?」と何度もたずねてくる。ランニングコースに出ると「え、ここに出るんだ!」 と妙に興奮気味だ。


家の前にとまるとオレの腰からの腕が離れ、なんだかスースーする気がする。オレも降りて自転車をいつもの場所に置く。



、今日は?」
「家、帰るかな」
「わかった」
「じゃね」
「また明日な」



走って自分の家まで帰っていくを見つめる。そういってもの家はオレの家の向かいだから走って帰るといったって1分もかからない。その元気な背中を見送り、フと思う。 あと何日こうやっての隣にいられるだろうと。ソレはあと、1週間をきっていた。



「お兄ちゃん?」



青波の声で我に返った。外でただ突っ立っているオレを心配そうな表情で見つめている。玄関へ行くと「今日はちゃん帰ったん?」と見上げてくる。そう毎日来るかよ。昨日一緒にメシ食っただろ。 心の中ではそう言っているのに口には出せない。なんでだよ。「帰った」と言ってしまえばなんだか寂しく感じるから?いつからそんなか弱い女子みたいなことを考えるようになったんだよ、と笑えてくる。 最近自分らしくないことばかり考えているような気がしてきた。



「お兄ちゃん、どうかしたん?」



返事が返ってこない、それにいきなり笑い始めた兄を相当不思議がっている。青波の返事もせずにオレはリビングへは行かずにそのまま部屋に向かった。今度は母さんがオレを呼んでいる。 今日はなんだかどうでもよく感じる日だ。メシを食う気分にもなれない。


ベッドに横になる。の温もりを段々と忘れかけている。オレは6日後、この街を去ることになっていた。親の都合ってやつだ。まだにそのことを言っていない。 言った後のの反応が手に取るようにわかるから。泣かれるのは正直どうしていいのかわからなくなるからいやだ。ソレは避けたかった。


目がウトウトしてきたときに机に置いてあったケータイのバイブが響いた。豪か?サワか?宿題はねえぞ、と体を起こしメール画面を開くと送信者名はだった。件名はいつも通り何も書かれていない。



『ありがとう』



・・・は?ありがとう?オレ礼言われるようなことしてないけど。本文にはその5文字しかない。返信のボタンを押すが、なんだか文字を打つのがめんどくさく感じて着信履歴を出す。 一番上にの名前がある。発信を押すとワンコールで莉胡が出た。



「ありがとうってなんだよ?」
「・・・私知ってるよ。巧、新田からいなくなっちゃうんでしょ?」
「なんでソレ・・・!」
「噂が流れてた」
「・・・どこからだよっ」



ベッドにまた横になる。模様もなにもない天井を見つめての言葉に耳をかたむける。明るく振舞っているんだな。声がかすかに震えている。 誰が噂を流したのか、もうどうでもよくなる。



「せっかく泣かないでおこうと思ってダッシュで帰って来たのに。電話でも、泣いたら、意味なくなるじゃん・・・っ!」



その言葉を聞いて、オレは階段を駆け下り玄関を飛び出した。向かう先はもちろん、向かいのの家。ろくに電気も付けないで、薄暗いなか小さくなっていたを抱きしめた。 やっぱり、の温もりを忘れたくはないと思った。



遠回りしたのも、なんとなくではなく、少しでも長くいたいからっていう理由がちゃんとあった。でも、ソレを口に出したくはなかった。 別れを惜しんで不自然な感じで一緒にいるのではなく、そのままのと一緒にいたかったから。

そういえば、ケータイだって専用の着信音がある。が勝手に設定したんだけど。 いつもオレはバイブだから個別着信設定をしても意味がないと言っても「いいよ、別に!したいの!」と言って設定していた。その後確認したらがすきだと言っていたSMAPのオレンジが設定されていた。 それは今でも変更されずに、そのままだ。相変わらずバイブだからその曲が鳴ったことはないが、その曲を聞けばいつも懐かしい気持ちになる。

オレはを絶対に忘れない。今でも、誰よりもたいせつだから。





ぼやける視界
(やっぱり泣かした・・・)(え?)(なんでもない。なんでもないから泣くなよ)(だってー・・・!)





071028 家長碧華
 (SMAP/オレンジ/ルネさんリク)
 タイトル提供:てぃんがぁら