そばに在りたい



一週間前に、U−22日本代表の招集がかかり、徳島で強化合宿をすることになった。 玲は、「試合の一週間ほど前に集まるのではなく、定期的に集まり練習した方がコミュニケーションが良くなる」と言っている。

俺たちにだって、Jリーグの試合だってあるし(最近俺らの年代で出場機会が増えてきているやつらが多い)、 その試合をこなしつつ合宿をやるのは正直大変だ。 俺は強化合宿は賛成だし、玲についていくだけ。 他のやつらもみんな俺と同じ考えだから、毎回有意義な強化合宿ができている。 今回の強化合宿で、もう5回目だ。


今回召集がかかった日は、4月13日。
が待つ家に帰れるのは、4月20日。 俺は合宿中に誕生日を迎えることになった。


13日にに「強化合宿の召集がかかった」と告げると、少し残念そうな顔をして「頑張っておいで」と返って来た。


「実は、一ヶ月ぐらい前から知ってたの」
「強化合宿が13日からだって?」
「うん。玲さんから電話がきてね、お偉いさんから13日から始めろって言われたって。翼と誕生日過ごさせてあげなくて、ごめんねって」
「・・・ふーん。玲から・・・」
「20日は夜には家に帰ってこれるでしょ?20日に翼の誕生日祝おう?」
「うん。20日は早く帰ってくるよ」


昨日が、俺の誕生日。 もちろん、合宿中。 練習後のファンサービスのときに、たくさんプレゼントをファンからもらった。 紙袋2つでも入りきらないくらいのプレゼントをもらった。 練習中から、「今日はお前のファンばっかだろーなー」と藤代たちに言われ、昨日より人が多いかなと感じた。 その藤代たちには、ブラジル式のお祝いを受けた(練習前に生卵をぶつけられた。前だよ、前。着替えに行ってる間に練習はどんどん進んでる)

今日は、20日。打ち上げが行われた。


「今日の打ち上げは、自由参加にします。参加する人は10時にロビーへ。不参加の人はここで終了。翼、早く行ってあげてね。 みんな、一週間お疲れ様。それでは、解散!」


「玲ッ!サンキュ!」と大声で手をあげ、礼を言うとウインクが返ってきた。 今日はオフにしていいと、ガンバの監督に言われていたはずだから、クラブハウスに行かなくていい。 若菜にも伝えておいてくれと言われてたっけ、忘れてた。


「若菜!今日はもうオフにしてやるからゆっくり休め。土曜日スタメンで使うぞ。監督から」
「マジで!?椎名!監督そういったのか!?」
「言ってた。俺にも言ってたけどね」
「よっしゃ!椎名、サンキュ」


紙袋3つは既に俺の愛車の助手席に乗っていて、俺も素早く乗り込みエンジンをかける。 ここからが待つ、椎名家は結構遠い。 だけど、が俺の帰りを待ってるんだ。その想いだけで合宿所を後にした。


途中、これから帰る。というような内容のメールをに送ろうかと思ったけど、やめた。 いつもなら、打ち上げに参加し、帰宅するのは夜の10時頃。 こんなに早く帰ってくるとは思ってないだろう。驚かせてやりたい。


家に着き、鍵はちゃんと持っているけれど、わざとインターホンを鳴らす。 自分家のインターホンを鳴らすのは今日が初めてかもしれないと思っている間に、内側から鍵を開ける音が。 ドアが開いた瞬間に、笑顔でただいまを告げると、案の定は驚いた様子で固まっていた。


「・・・合宿サボったの・・・?」


愛する妻のために、車を飛ばして帰ってきて、おかえりとだいすきな笑顔で迎えてくれると思っていたら、第一声がサボったの? 流石の俺でも、そこまで予測は出来なかった。


「ちゃんと、終ったよ。それより、中入れてよ。車飛ばしてきて、ちょっと疲れた」
「なら、いいんだけど・・・。あ、あぁ、ごめん、ごめん」


久しぶりに入る、我が家。あの合宿所も、もう慣れたものだけどやっぱり、我が家がいちばんだと実感する。 俺の前を歩く、を今すぐ抱きしめたいけれど、まだ「ただいま」も言われていない。 誕生日のことを忘れただろうか(あ、助手席にプレゼント忘れてきた。ま、いいんだけど)


「今回の合宿随分早く終ったんだね?」
「玲が今回の打ち上げは自由参加にしてくれて、急いで帰って来た。 で、。俺まだ言って欲しい言葉言ってもらえてないんだけど」
「え?あ、おかえり」
「うん、ただいま。・・・まぁ、それも言って欲しかったんだけどさ、もう一つ言って欲しい言葉ある」

「誕生日おめでとう、翼」

「ありがと」


微笑んでいるを、一週間ぶりに自分の腕で閉じ込める。 あー・・・久しぶりの翼だ。と可愛いことを言っているが無性に愛しいと感じた。 軽く口付けをすると頬をほのかに赤く染める。


誕生日だからって別に特別なことをして欲しいわけでもなく、ただこうしてと居られるだけでいいんだ。








070906 家長碧華
(椎名翼誕生祭に提出)