「はあー・・・」
今日何度目かわからないため息がこぼれる。無意識のうちにため息をついていた。そして、また一つ。
今は、10分の休み時間であと8分でまた授業が始まる。次の授業は確か現代文だ。つまらないな。またため息をつきそうになったとき、前の席に浜田がやってきた。
「泉ー。どしたんだよ、ぼーっとして」
「なんでもねーよ」
「なんだー?部活のことか?」
「ちげーよ。部活は楽しい」
楽しそうにやってるもんなー、と浜田は笑った。その浜田をオレは机に肘をついてぼーっと見ていた。浜田の肩越しにが見える。オレの視界は浜田はぼやけて見え、がくっきりと見えている。
じゃあ、恋か!!と妙に嬉しそうに言う浜田の声で、再び浜田にピントが合った。自分の目が見開いているのがわかる。こんな反応じゃ「そうです」と言ってるようなもんだ。
いくら浜田がアホだからといってもこれくらいのことは気付くだろう。
「あー、そうなんだ!泉誰すきなんだよー!教えろよー!」
「煩いな!ちげーよ!浜田どっか行ってろ!」
「まだ休み時間は5分以上あるから自分の席戻っても暇だろ!田島と三橋はもう弁当食ってるしよー」
煩い浜田を相手するよりも野球がしたいな。と思った。野球をやっているときは、これほどのことで悩まないでいられるから。クラスでこうやって休み時間を過ごしたり、授業を受けているときはやばい。
オレの席から丁度が見えるのがやばいんだと思う。黒板の文字をノートに写すときに視界に入る。隣の席の奴と嬉しそうに喋ってるのが見える。ソレに嫉妬する自分が嫌だった。
そんなときは無理矢理視線を外し、ぼーっと空を見た。窓側だというのがせめてもの救いだった。
「自販行ってくる」
「おー?オレにもオレンジジュース!」
「金よこせよ」
「後で渡すからっ!」
いてもたってもいられなくなり、とにかく教室を出たかった。無意識のうちにを探すようになっている自分に笑えてくる。さっきまで居た場所にはいなかった。クラス全体を見回してもいない。
きっと何処かに行ったのだろう。そう思って財布を持ち、浜田をその場に残し自販機へ向かった。
# # # # #
西浦の自販機はグラウンドからも買えるようにと置かれているのかは知らないが、グラウンドとガラスのドア一枚で区切られた場所に置かれている。目当てのカフェオレとオレンジジュースのボタンを押す。
ドアが数センチ開いている。野球部は使わないグラウンドだ。授業でしか使ったことがない。ダイアモンドもバッターボックスもない。ただのグラウンドだ。
クラスに帰ろう。少し頭も冴えてきた。次の現代文は少しくらい集中して授業に臨もう。グラウンドに背を向け、歩き出したときにこちらに向かってくる生徒が目に入った。見覚えがある、気がした。
それと同時にもしかしたら、という期待する気持ちもあった。
「泉くんだ!泉くんも自販?」
「おう。も?」
「そう、そう。購買は人が多いから嫌で。自販はいっつも人居ないんだけど今日は泉くんがいた。珍しいね」
「そうか?オレ、結構自販使うけど」
「そうなんだ?あ、ちょっと待って!一緒に戻ろう!」
そう言ってはパタパタと自販機へ駆けていった。オレはその場に立ち止まり再び自販機の方へ歩き出す。はなにを買おうか決まっていなかったらしく、並べられているパッケージを見つめていた。
いいや、これで!と言ってボタンを押し、取り出したのはオレと同じカフェオレだった。
「泉くんが持ってて、飲みたくなった!」
「おし、じゃ、戻るぞ」
「なんで泉くん二つも持ってるの?」
「あーカフェオレはオレの。オレンジは浜田の。ついでにって頼まれたから」
「浜ちゃんのか!泉くんと浜ちゃん仲良いもんねー。なんか泉くんとこにおしゃべりしに行きたくても、行ったら邪魔かなとか思って中々行けない!!」
「はあ!?マジでそんなこと思ってんの!?」
いきなり大声を出すオレにびっくりした様子では頷いた。が来たら邪魔?そんなわけないだろう。むしろ浜田が来たら邪魔だったわけだ。
今まで、こうやってと並んで歩いたり、隣にいるオレをうまく思い描けないでいた。でも、実際はオレが思っていたよりも悪くない気がする。まだ、堂々と二人で歩けるような関係ではないけれど。
いつかは指を絡め、自分の気持ちを正直に伝えればが笑ってくれるような関係になれれば、オレはこれからぼーっとすることはなくなるはずだ。
「お、泉、と一緒に行ったのかー?」
「・・・うるさい、浜田。もうくんな」
「え、は!?何で!?なんで、は笑ってんの!?」
まずは浜田をどうにかすることを考えよう。
女々しいところを見せたくなかった
(泉くん、泉くん!)(ん?どした?)(一緒に自販行こう!)(お、おう!)
071112 家長碧華
(ポルノグラフィティ/ジョバイロ/まりもさんリク)
タイトル提供:as far as I know