「ああ・・・パスボールだ」



少し雲の多い空。今日は野球部の全校応援。早く着いてしまってまだ前の高校の試合がやってた。3塁側アルプスにはその高校の学生がたくさん応援している。

だから、私たちは外野の芝生に座り試合終了を待っていた。



「なにソレ?」
「へ?パスボール知らないの?」



ランナーが3塁へ進んだが、すでにアウトを2つ取っている。後1つでゲームセット。点差も2点だから有利なのは勝っている高校に違いはなかった。

ピッチャーが投げたボールはカキンっと金属音を立てるとセンターへと飛んでいく。パシッ。ボールがグラブに入る音が私はすきだ。センターフライ。ゲームセット。


パスボールを知らないというにキャッチャーがピッチャーの投げた普通のボールをこぼす事だと説明する。普通に座ってて取れるところに来たボールが取れないことだと。

はわかったのか、それとも興味がないのか「ふーん」と頷いて整列している2校の高校球児を見つめたいた。

先生が「移動するぞー!3年生が先に入らないと1、2年が困るから早く入れー!!」と叫んでいる。スカートについた芝生をはらってアルプスへ向かった。





淋しくないよ。君がいるから。





「なんでは野球部マネージャーでもないのに野球に詳しいの?」
「小学生のとき、家の近くに男の子の友達しかいなくてさ。毎日のように遊んでたらその子の影響で野球詳しくなって、だいすきになったの」
「へえー!その男の子、今は?」
「・・・ソレ聞いちゃう?」
「なに!気になる!」
「・・・その男の子は叶修悟という男の子、です」
「えっ!?叶!?」



どこからかオレの名前が聞えた気がした。誰か呼んだか?と周りを見ても野球部しかいない。オレの名前を呼んだのは女子の声だった。

「叶っ」と今度はわかった。織田だ。メガホンを2つ手渡される。

オレら野球部を引退した3年はベンチメンバーに入れなかった現役野球部と一緒に援団をする。援団には優先して2つずつ配られているらしい。全校生徒分の数はないから。

そういえば、がメガホンで応援したいと言っていたのを思い出した。の姿を探す。アルプスの1番前にと座っている。昨日「1番前の席ゲットする!」と意気込んだメールがきた。 その宣言通りソコに座っているを見て、思わず笑ってしまいそうになった。の手にメガホンは、ない。



「織田!メガホンあと2つくれ」
「自分2つも持ってるやないか」
「いいから!」
「しゃーないな、ほれ」
「サンキュ」



自分のメガホンは自分の席に置き、2つのメガホンを持って階段を駆け降りる。織田は驚いて、オレの名前を再び呼んだ。



っ!」
「あ、修悟。どうしたの?」
「ほら、メガホン。コレで応援したいって言ってたじゃん。にも」
「ありがと、修悟!」
「叶、ありがとー」



まだ試合は始まってはいないけど立ってたら邪魔じゃんと思いしゃがむことにした。試合前の練習だろうが、そこは元野球部の礼儀。しゃがむとより目線が低くなった。



「アルプスから観る自分のチームは初めて?」
「初めて。変な感じ。寂しいな、引退は」
「ねえ、ねえ、叶」
「ん?なに?」
「叶の影響では野球がすきになったらしいね?」



小学生ンとき?とに尋ねると「そう」と返ってきた。約束してない日でもン家に遊びに行ったこともしょっちゅうだったなー。 「友達の家行っていないの」っておばさんに言われて、悲しくダッシュで自分家帰ったりもしたな。すげえ、懐かしい。



「1日に何回も野球、野球言ってたしな、オレ。アレから引っ越してって、転校はなかったけど遠くなって遊びに行くの大変だったな。帰ってくるの遅くて怒られたこともあったし」
「それでも毎日の様に来てたじゃん」



メガホンで頭を叩かれた。「叩きやすい高さだよ」と笑い、「撫でやすい高さでもある」と撫でられる。



「小学生のときから付き合ってるの?」
「いや、そんときはまだ付き合ってねえよ。オレが告ったの中3だし」
「そうなの!?」



あまりにもがおどろくから、に、だよな?と念のため確認する。「そう、そう」と二度頷くと、は「ええー・・・」と反応した。

「叶ーっ!」とまた織田が呼んでいる。なんだよアイツ。オレのこと呼びすぎだろう。メガホンを振り回している織田を見て、ため息がこぼれる。

たたんでいた足をのばす。楽だ。しゃがんだ体勢はきつかった。



「援団の最終確認やる言うとるでー!!」
「おー!わかった、今行く!」



グラウンドはもう練習が終っていて、整備に入っていた。そろそろだ。1、2年だけの三星野球部がスタートする。



「なあ。試合終ったらメシ食いに行こうぜ」
「あ、行く、行くー!」
「ん、決定。援団してくるわ」
「うん。メガホンでいっぱい応援するよ」
「おう。じゃな」



階段を2段飛ばしで駆けのぼる。メガホンを2つ手に取ると先生が三星のオーダーを声を張り上げて言う。そしてソイツの応援歌も確認する。



「メガホンちゃんにあげたんやなあ。それにの分まで。気ぃ利くカレシやなあ」とニヤニヤ笑っている織田を思い切りメガホンで殴る。

両校の選手が勢い良くグラウンドに出てきた。がメガホンを叩いている。終ったらどこに食べに行くこうかとオレもメガホンを叩きつつ考えていた。





071119 家長碧華
  タイトル提供:MISCHIEVOUS