「久しぶり」
そう言った翼はなんだかとても大人っぽく見えて、直視することができなかった。翼と会うのは約半年ぶりだ。たった半年なのに大人っぽくなった気がする。
確か最後に会ったのは高校1年の夏に入りかけていた頃だ。
私たちは中学を卒業し、それぞれの高校へ入学した。翼はサッカーの名門校へ行き、文武両道を今まで以上にこなしているのを知っている。
先日、大会で優勝して全国大会に出場すると新聞のスポーツの記事に小さく載っていた。小さく載っているのに、見つけてしまう自分はやっぱり翼がすきなんだなあと思う。
久しぶりに会った。そう、翼が言ったように久しぶり、なんだ。ソノ言葉はちょっぴり嬉しく、ちょっぴり悲しかった。
私たちは高校1年生の真ん中辺りで自然消滅した。連絡が段々と減り、ついには全く連絡はこなくなった。部活で大変なのは百も承知だった。
中学生のときは、そんな困難も平気だと信じていたし、翼がすきなんだからダイジョウブとただそれだけの根拠で私は深くは考えていなかった。
その分、現実はとても厳しく感じたし、やっぱり同じ高校の女の子の方がいいもんね。と勝手に決めつけて前へ踏み出そうと頑張った。
私の学校のサッカー部もソコソコに強くてかっこいいんだから!とマネージャーになろうかとも考えた。けれど、今の私はどこの部活にも入っていない。サッカーを観る度に翼を思い出すし、探してしまう。
結局は翼がだいすきなんだ。
「久しぶり、だね。元気そうじゃん」
「まあね。風邪なんか引いてられない時季だし」
「全国大会だって?やっぱり凄いね」
「へえ?知ってたんだ?」
にっと笑う翼の笑顔を見ると断ち切ったはずの未練がまたふつふつと盛り返してくる。ここで、”知ってたよ。だって、翼のこと気になってたもん!”などと言ったら翼はどんな反応をするだろう。
さっきのように笑ってまたあのときのように頭を優しく撫でてくれるだろうか。それとも、作り笑いで済まされるだろうか。
そんなアクションを起こせずに、ただ私は、だって新聞に載ってたもんね。と少し笑って答えるにとどまった。
「なに、。今日楽しくないの?」
「へ?な なんで?」
「だって笑ってないし、顔が。高校でなにかあったわけ?そんな作り笑いするようなやつじゃないだろ、は?」
今日は久しぶりに中学時代のクラスメートとの同窓会だ。この日を私はとても楽しみにしていて、今だって本当は楽しい。でも、翼を目の前にするとなんだか嬉しく笑えないのが本音だ。
ソレを見透かされていたようで、少し嬉しく感じつつもなんだか悪い気もした。翼と居るのが嫌いなわけじゃない、から。
別に高校だって楽しい。ここにも今同じクラスの友達が2、3人いるし、親友と呼べる友達だってできた。高校生活は楽しくエンジョイしている。
「楽しいよ?さっきまでと喋ってたし、すごい懐かしくてなにはなそうかー!ってテンション上がったしさーほら、あっちに直樹とかいるんだよ?行った?」
「まだ行ってないけど、あいつらとは結構会ってるから別にこんな場で改まって話すことないんだよね」
「そっか、そっか。じゃー・・・あっちにホラ」
「」
「な なに?」
「オレ、と話したいんだけど」
そう言った翼の顔は真剣そのもので、そんな顔にもドキッとしてしまった。なに?と返事する自分の声が少し震えていた。翼の次の言葉がとても怖かった。
私も翼と話したいことはたくさんある。が、なんだか怖くてうまくしゃべれない。一度は別れた私たちだから。そう思うと今更、話すことはないのかもしれない。
翼を巧く撒く言葉なんて持っているはずもない。そんなものこの世にあるのかもわからない。少なくとも私は持っていないということだ。
「オレたちってもう終ったの?」
終ってない、の?私は終ったんだなーと勝手に思っていたわけで。勝手、に。
なかなか返事をしてこない私に翼は容赦なく次の質問をぶつけてきた。
「、すきなやつできたわけ?」
「すきなひと!?で できないよ!!ん?いや、すきなひとはいる、かな」
「へえ。オレもいるんだよね。すきな人」
「やっぱり、できたんだ、すきなひと・・・?」
「ん?いや、できたっていうかずっとすきなんだよね。失ってから気付いたって言ったら悟ってくれる?」
「失ってから気付いた 人?」
無言で頷く翼を見つめる。そうか、翼には私と別れた後、付き合った人がいてその人と別れちゃって、失ってからその人が大事だって気付いたのか・・・。どうしてわざわざそんな話を私にするのだろう?
嫌味だ。ものすごい嫌味だ。翼は毒舌だけど、そんな人じゃない。
失ってから気付いた人ねえ・・・。私にとってのその人は翼だなあ。とぼーっと考えていたら、「今絶対オレと同じこと考えてた」と翼が言う。同じこと?と首を傾げると「うん」と翼は大きく頷いた。
いや、いやー。ないでしょー。ソレはないでしょー。そしたら翼は私のこと考えてたってことになるんだよ?
「もう一回やり直さない?オレたち」
にっと笑った翼は断られるわけがないと、わかっている様子でほんとに、ほんとに翼には全てがお見通しだった。
素直にずるいと思った。そうだ、翼はずるい。私のことは全部わかってるのに、私は翼のことを全然わからない。一方通行もいいところだ。翼の言葉や行動に笑い、涙し、呆れ、嬉しく感じる。
その反対のように、翼は私の言葉にどう思っているのだろう。
素直に嬉しく思えない私はやっぱりバカなんだ。なんで、ずるいって言葉が先に思い浮かぶかなあ。ほんとに私の頭は上手くできてないよなあ。
「ずるいよ。翼はずるい」
「そこがオレの売りだろ?クレバーさがなくなったらオレじゃないよ」
「かしこいなんて言ってないでしょー!ずるいの。ずるいの単品なの。ずるがしこいなんて言ってません」
「ははっ。そうだね。うん。やっぱり、オレはがすきだよ」
頭を優しく撫でられる。翼の手が少し大きくなったんじゃないと思う。でも、翼の優しさは変わってはいなかった。涙出そうになって、慌てて後ろを向く。こんな顔見られたくない。
ふわっと懐かしい香りがした。翼のにおいだ。後ろから抱きしめられている。慌てて、私は翼の名前を呼んだ。だって、ここは私たちだけじゃない。他の友達もたくさんいるのに。
「こんな必死にの気を引こうと思ってるのにさ、はなんかいろいろ考えてる感じだし。素直に言えよ。今日ぐらい素直になってもいいんじゃない?無言はOKだと取るよ?」
「え、いや、あー・・・と」
「ん?」
「私、ずっと、ずーっと翼のことすきだったよ」
「すき、だった?」
「いや、すき!今だって凄いすき」
「・・・はぁー・・・よかった。今度は、絶対離さないから」
そう言って笑った翼の笑顔が今日の一番の笑顔だった。
明日の居場所
(翼のばかー!ほんとばか!)(はい、はい。泣くなよ)
071125 家長碧華
(BoA/LONG TIME NO SEE/綾さんリク)
タイトル提供:てぃんがぁら