インターホンが鳴る。自分以外誰もいないから、オレが出るしかない。

セールスマンだろうかとテレビからインターホンの画面へ視線をうつす。知らない女の人が立っていた。でも、女の人より女子といった方がしっくりくる。通話ボタンを押す。
とりあえず誰だか確かめようと思って、はい、とだけ呼びかけてみた。



です。隆也くんいますか?」



。あ、兄ちゃんの彼女だ。あまりそういうことを話したがらない兄ちゃんから聞いた数少ない情報を思い出す。野球部マネージャーでクラスメイトの兄ちゃんの彼女。下の名前は確か、だ。

兄ちゃんは今は留守だ。部活っていってたけど、この人は行かなくていいのだろうかと初対面の人に心配している自分に驚く。きっと「兄ちゃんの彼女」だから親近感がわいたんだ、と思うことにした。
帰ってくるのは5時くらいだといっていた。現在4時50分。もうすぐ帰ってくるはずだ。



「居ないけど、ちょっと待ってください」



通話ボタンをもう一度押し、画面が消えたのを確認すると玄関へ向かった。画面で最後に見た兄ちゃんの彼女の表情は、「なんで隆也が居ないのに待つんだろう?」とでも言いたげだった。
しかし、ドアを開け直接見たときはなんでか驚いた表情をしていた。





感情を剥き出しにしたあなたは





ドアが開くと隆也が立っていた。いや、隆也はいないと言っていた。よく見ると幼い隆也だ。背だって私と同じくらいで、なんだかすごく不思議な感じがする。



「多分すぐ帰ってくるから、上がって待っててください」
「え、あ、ハイ」
「オレ、弟のシュンです」
「弟くん!すごい似てる!」



ずんずんリビングへ進んでいくシュンくんの後についていく。お邪魔するのは三度目だが、シュンくんに会うのは初めてだ。きっと性格はシュンくんのほうがいいんだろうな。こんな知らない人に飲み物の準備をしている。
どこに座ればいいんだろう・・・!というのがシュンくんに伝わったのか「ソファに座って」と言われ、大人しく私はソファに座らせてもらった。



「私の事知ってるの?」
「兄ちゃんの彼女でしょ?」
「あ、知ってるんだ!」
「兄ちゃんからちょっとだけ聞いたから」


あの隆也が私の事を話しているとは思っても見なくて、驚いた。隆也に弟が一人居て野球をやっている、とは知っていたが、それ以上のことを流されてしまった。シュンという名前すら知らなかった。

氷をたくさん含んだコップにはレモンティーが入っている。ストレートかレモンか、どちらがいいか聞かれて私が頼んだからだ。家にはやっぱりシュンくんしかいないらしい。
カレシの弟と二人きりなんて何をしゃべればいいんだろう!と一人オロオロしていたら「ってオレのクラスにもいるなー」とシュンくんが呟いた。



「下の名前は?」

「・・・へ?」
って名前だよ」
「・・・それ弟だ。サッカーやってる?」



飲み物を飲みながら(あ、シュンくんもレモンティーだ)シュンくんが頷いた。シュンくんとクラスメートかよ、あいつ!そういえばよく家で「シュンってやつマジウケるんだって!」とが言っていた気がする。
でもソレが隆也の弟とは思わないでしょう。阿部なんてたくさんいるし!



「へえ、の姉ちゃんが兄ちゃんの彼女だったんだ」
「だ、だめですか・・・っ!?」
の話では男っぽい姉ちゃんってイメージ持ってたんだけど・・・全然だし。むしろ可愛いし」
「・・・シュンくん?」





格好悪くて格好良かった





ドアを開けると家にあるはずがない靴があってビックリした。この靴はのだ。オレと一緒に買いに行ったから間違いない。ピンクのadidasの靴。
こんな普通な靴がすげえ高かった(良いスパイクが買えちまう)ソノ靴の隣にオレも靴を脱ぎ、リビングへ向かった。ソコは何故か顔の赤いとオレに「おかえり」というシュンがいた。



「お、おー。ただいま」
「た、隆也、おかえりっ!」
「・・・ただいま。お前どうした?顔赤いぞ?」



ソファの横にエナメルバックを置く。「ここ、座って」とが左へずれて開いたスペースに腰をおろす。とりあえずシャワーが浴びたいがオレが居ない間に何があったのか聞いてからにしようと思い、もう一度尋ねる。



「どうしたんだよ?」
「しゅ、シュンくんがね・・・!」
「シュンなにした?」
「可愛いなって」
「・・・は?」
「だから、さん可愛いなって言ったんだよ」



こいついきなり下の名前で呼びやがった!さんが付いてるのはシニアでのくせだろう(先輩はさん付けで呼ぶ。ソレ以外にもシニアは礼儀に厳しい)ソレでは顔を赤くさせてんのかよ。

シュンに対する苛立ちなのか、それともに対する苛立ちなのか自分でもわからない。二人のどちらに苛立っても仕方ないということだけはわかっていた。



「隆也!シュンくんとってクラスメートなんだよ」
「知ってたよ。こいつがって何度も話しに出てくっから」
「ええ!?なんで教えてくんなかったの!」
も知ってると思ってた。知らなかったのかよ」



「これから変なコトに言えないわ。シュンくんに漏れちゃうかもしれない!」「、姉ちゃんの話結構するから」「うっそ!?やばいねシュンくん助けて!」と助けを必死で求めるにうれしそうに笑顔で
「いいですよ」と答えるシュンがムカついてくる。あいつこんな性格だったか!?と今までのシュンと比べる。いや、オレたち兄弟はそれなりに仲が良く、オレに見せ付けるように笑うなんてありえなかった。
実際今は見せ付けてるのかどうかはわからないが。



「シュンくんめっちゃ可愛い。より可愛い」
「へえ?」



アレからとシュンは急速に仲が良くなった。そのときに気付いた。シュンは見せ付けてはいない。素直に嬉しがっているようだった。・・・あいつに惚れたんじゃないだろうな。

を家へ送る帰り道、「シュンくんめっちゃ可愛い」なんていうもんだから、実の弟になんつー心配をしているんだと思う。嫉妬かよ。はそんなオレを知ってか知らずか(のことだから知らずにだろう)
更に畳み掛けるような言葉を言った。



「ちいさい隆也は可愛い。ぎゅーってできる」
「へえ、良かったな」
「なに怒ってんの?」
「・・・別に」
「(拗ねてる!どうしよう可愛い!)大きい隆也にはぎゅってしてもらう」
「へえ?」
「ソレが一番すき」



そう言って逃げるように駆け出したの腕を掴む。言い逃げなんかさせねえぞ。「た、かや?」と驚いた表情で見上げてくる。
今日こんなに目が合ったのは初めてな気がする。道の真ん中(車は滅多に通らない道)だろうが気にせずを抱きしめる。人も誰も居なくて良かった。



「ここ、外ですけど!」
「コレが一番すきなんだろ?」



そういうと大人しくなったをシュンがいるときは家には呼ばないようにしようと心に決めた。





071208 家長碧華
 タイトル提供:てぃんがぁら
 (オレの姉ちゃん外でカレシと抱き合ってたんだぜ、シュン!!)(・・・兄ちゃんのバカ!)