夏が終りかけてきた日、にデートに誘われた。から声がかからなくても、その日は部活が休みだったからオレが誘っていたと思う。部活があっても、もしかしたら休んでいたかもしれない。 明後日、と別れる。ここから旅立つ。少しでも一緒にいたいという気持ちが強かった。実際まだがいなくなるという実感は、ない。

でもは確かにその現実を受け止めているようだった。表には見せないが、オレはなんとなくわかっていた。いつも通りに振舞うが強いと思った。



「鞄が欲しいんだ。なるべく大きいやつがいいな」
「大きい鞄?普段持って歩くやつ?」
「そう。可愛いのがいい!ってことで、翼あっち行こうよ!鞄いっぱいあるよ、あのお店」
「わかったから引っ張るなよ。ほら、人が多いから迷子になる」



休日のショッピングモールはたくさんの人で溢れかえっていて、ただでさえいきなりいなくなるは要注意だ。手を繋ぐと照れたように笑う。ソノ笑顔がとても可愛い。(そう思うオレはかなりに惚れている) 今日はいくらでもに付き合ってやろう。これが最後の想い出、なんて考えないようにするのは少しの苦労があった。

が行きたがっていた店は鞄専門店のようで大小さまざまな鞄が並んでいる。店内をゆっくり歩いて眺め、時々手に取り、肩に下げてみて、元の位置に戻すを何度も繰り返した。 「どう?コレ?中々可愛いよね」と見せてくる。オレは素直に返事をした。らしくないと思ったら、その通りに言った。「あー、やっぱりかー。翼には色々ばれてるなあ」と笑う。

今まであまり好んでショッピングには来なかったが、今日は別だった。こうしてといる時間がとてもゆっくりで、苦ではなかった。

鞄を手に取るたびに繋がれていた手は離れたが、元の位置に戻すとのほうから無意識のように手を繋いできた。ソレが無性に可愛く思えて仕方なかった。 一度我慢できなくなり、頭をポンポンと叩くと不思議がって「どうしたの?」と聞いてくる。オレはなんでもないと答えた。



「翼、他のお店行こう」
「ん、次はどこ?」
「次ね、あっち!あのCDショップの隣のお店」



その繰り返しをして5件目のお店では気に入った鞄を見つけた。ソノ鞄を見つけた瞬間に「コレだ!決まり!」と嬉しそうに抱えていた。値札を見ると2,980円と手ごろな価格には迷わずレジへ向かう。

本当はオレがソノ鞄を買ってやってもいい。でも、ソレをはあまり喜ばない。コレは付き合ってから知ったことだ。もちろん、誕生日プレゼントなど「中身のわからない、いきなり」のプレゼントは子供のように嬉しがる。



「もう私の目的は終ったよ。次、翼。どっか行きたいとこある?」



いきなり行きたいところと聞かれてもパッと出てくるものはなかった。いつもなら映画を見に行くが、映画を見ている約120分が今はもったいない気がする。 それならこのまま120分間ブラブラ歩いていた方がと一緒にいるという気持ちが強いはずだ。



の行きたいところでいいよ」
「・・・珍しい。映画って言わない・・・!」
「デートの度に見たわけじゃないだろ!そんな驚くなよ。で?どこかないわけ?行きたいところ」
「そうだなー・・・。じゃ、いつものジェラート屋さん行って、フットサルコート行って、あの公園に行こう!」
「フットサルしに行くわけ?柾輝たち呼んでないけど」



とりあえず歩みを行きつけのジェラート店へ向かわせる。二人で一番よく行く店だ。場所はもうわかりきっていた。ソコのバニラがのお気に入りだ。必ず頼んでいる。

ジェラート店に行きたいというのに疑問は持たない。が、フットサルコートになんて行ってどうするのだろう。いつもは観ているだけのフットサル。行く度に一緒にやろうと誘うけれど「私には無理ー!観てたい」の一点張り。 結局一度も一緒にフットサルをすることはなかった。



「もうこっちに来れないかもしれないでしょ?想い出拾いに行きたいの」



そういって笑ったはなんだか苦しく感じた。無理に笑った笑顔が見たいわけじゃない。切なくなってオレは繋いでいた手を強く握った。ソレに応えるように握り返してくれるの小さな手を一生離したくないと思った。

泣けばいいじゃん、とは言わない。そう言うのは簡単だ。我慢しているを見るのはツライが、ソレはが何か考えての行動だ。踏みにじるようなことはしたくない。 我慢の限界にきたら、の方から言ってくるという自信があった。

涙を流したいならオレは黙ってを抱きしめてやろうと思う。次に会うときまでの空白を前もって埋めるためにたくさんキスもして。いつもなら恥ずかしくてあまり言わない、すきだっていう言葉ももういらないってくらい言って。



「また絶対こっちに来るから、新しい想い出も置いていきなよ」
「どこに、置いていけばいいかな?」





涙の隠し場所
(翼?・・・苦しいよ)(うるさい。じっとしてろ)





071213 家長碧華
 (BUMP OF CHICKEN/車輪の唄/凛さんリク)
 タイトル提供:てぃんがぁら