自分の父と母




カラン、カラン・・・

小さい子供がいる家では良く聞く音。赤ちゃんの遊び道具の音。 椎名家では今日も聞こえている音。


「マーマー」


やっと言葉をしゃべるようになった。一番初めにしゃべったのはやはり「ママ」。 翼がとても悔しがって必死に「パパ」と言わそうとしていた。 そのかいがあって今ではちゃんと言えるようになっている。


「はーい?どうしたの?」
「ぶーぶー。ぶーぶー!」


ミニカを動かしながら、キャッキャと遊んでいる。 そんな自分の息子を愛しく思う。 それから暫くの間はと遊んで、ほのぼのとした時間を過ごした。



夜になっても翼は帰って来ない。 代表で遠征に行っていて今日は帰って来れない。 明日久しぶりに我が家へ帰れる。 そう思い今日も練習を頑張った。


「今日もねパパは帰ってこないのよ?きっと明日会えるよー久しぶりに。 はパパの顔覚えてるかなー?」
「パパー・・・?」


翼の顔が思い出せないらしくて、必死に思い出そうとする顔さえ可愛く思う。



翼が帰ってくる日になっても、はいつもと変わらずミニカに夢中。 はとても楽しみにしている。


「ただいまー・・・」


扉の開く音がして、元気のない声が聞こえた。 流石の翼でも疲れているらしく、声が小さかった。


「おかえりなさい、翼。お疲れ様」
「はぁ・・・本当疲れたよ。こんな疲れたの久しぶり。それより、は?」
「いつも通りミニカで遊んでる」


そう言うと翼は一直線にの元へ向かった。 は翼の荷物を片付けるだめ、寝室へ向かった。


ーただいま。久しぶりだね」


は固まり、翼の顔を瞬きもせずに見ている。 そしていきなり泣き出した。


「うぇーんっ!マーマー・・・!」


泣き声なのか叫び声なのかわからないものが響き渡った。


「ちょ・・・!どうしたのよ!?」
「・・・さぁ?」


いきなりの出来事でさっぱりわけがわからずに。 ただ、なだめようと必死な二人。


「うぇーんっ!!」


一向に泣き止む気配は無くて、途方にくれていた。


「・・・こいつ僕の顔見て泣いてる?」
「へ?どうしてよ?」
「いや・・・」


翼がを覗き込む度に大声をあげている。


「もしかして翼の顔忘れちゃって、変なおじさんだと思ってるとか?」
「変なおじさんかよ。父親だっての」


更に疲れが押し寄せたのか、一つため息をついてソファに倒せるように座った。


ー?パパよ?知らないおじさんじゃないよ?」


そう言ってもにしがみ付いたまま顔を横にふるだけ。


「あらら・・・。眠いのかな? 翼、私寝かせて来るわ」
「ん・・・わかった」


心なしか、帰ってきたときの「ただいま」より小さくなっている気がした。


よほど泣きつかれたのか、はすぐに寝た。


「僕どうすれば良いわけ?明日、明後日休みなんだけど。一生泣かれたら、困ったもんじゃないよ」
「二週間の代表が痛いわね・・・。でも、そんなこと言ったってどうしようもないじゃない・・・。 私に言ったって。余計泣かれちゃうわよ?」
「・・・ごめん。・・・とりあえず明日、どうにかしよう。寝ようよ・・・久しぶりに一緒にね」
「うんっ!」



そして次の日の朝、二人の計画が始まった。 一日たってもは翼の顔を見ると泣き出した。 何度も翼が呼びかけても全然ダメで、しまいにはに抱き付いてきた。


「ごめんねーー」


何とかから離れは翼に抱きついた。


?私はママで、この人がパパよ?だからママはパパが大好きなの。  もパパのこと好きだよねー?」


は二人を不思議そうな目で見ている。 失敗だったか?とコソコソ話していると、翼の足元にが居た。 よく見ると翼の足に抱きついている。


「パーパー・・・?」


翼はとても驚いたように、でも嬉しそうに笑った。


「そう、パパだよ・・・」


を離しを抱っこする。


「パパーッ」


オンプマークがつくぐらいの勢いで喜んでいる。 その時の翼との笑顔はそっくりだった。



あれからはずっと翼から離れなくなり、 翼はずっとと遊ぶはめになっている。


「今度はパパのこと忘れないでよね?」


言葉では返ってこないけれど、にっと笑って抱きついてくる。 は父親っ子になりそうだ。


その頃母親は・・・キッチンにいた。 料理をしなきゃならないとわかっていても、なかなか体が動かない。 包丁を持ったままボーっと立っている。


?ずっと何もやらずにどうしたのさ?」


キッチンから何も音が聞こえないのを不思議に思って来た翼にも気付かなかった。


「別に・・・って!何してるのよ。動きにくいじゃない」


後ろから抱きしめられている状態だ。


「動いてないくせに。もしかしてにヤキモチ?可愛いー」
「だ、だって・・・。って仕方ない事なんだけどね」
には早く大きくなってもらわないとね。  と一緒に居たいしさ。まぁ、今回は可愛いが見れたし」


「パーパー」


子供部屋で翼を呼ぶ声がする。


「はーい。今行くからなー」


子供部屋に戻る際に言った言葉は・・・。


「僕がを放っておくわけないじゃん」





=あとがき=
ただ「子供に嫉妬」と「代表遠征疲れ(みたいなモノ」が書きたかったんです
何だか分けわかんないですが・・・。
もっと比喩とか直喩とか・・・頑張れみたいな?

   家長碧華