「ー!パパとお風呂入っておいでー!」
「風呂入るよ、ー」
「はーい!」
「もうすぐクリスマスだね。はサンタになに頼むのさ?」
「えーパパには、ないしょ!」
「なんでだよ?教えてくれたっていいだろ?パパがサンタに伝えておいてやるからさ」
「ダメ!パパにはおしえない!」
「・・・じゃー後でママに言っときなよ。ママがサンタに伝えてくれるから」
「うん!」
そのときはなんでオレには教えてくれないんだよ?と不思議に思うだけだった。には言うらしいから、後で聞いて明後日(丁度オフだし)に買いにいけばクリスマスには間に合う。
困らなくてよかった。と思う気持ちの方が強かったから、そんなに気にも留めなかったのかもしれない。
ー!上がるよー!と呼べばパタパタとスリッパの音を鳴らせてやってくる。をに任せてオレはもう一度湯船につかる。が興奮気味にになにかしゃべっている。
内容は聞き取れないが、なんだか笑えてくる。
髪の毛をバスタオルで乾かしながらリビングへ行くとが何かを書いていた。が風呂に入るといってすれ違ったときに「サンタさんへお手紙書くんだって」とクスッと笑って呟いた。
「なに書いてんだよ、?」
「パパはみちゃダメ!」
「なんで?さっきからパパばっかりダメって」
「だから、パパはダメ!」
そう言っては一式を持って自分の部屋にこもってしまった。そんなあからさまな態度をとられると流石のオレでも少し傷つくんだけどね。
もうシーズンもオフに入ったから(天皇杯は負けたからもう今シーズンは試合がない)今日だって、一緒にサッカーして遊んでやったし、も楽しそうにしていた。
に嫌われるようなことはしてないと思うけど。
「翼なに考えこんでんの?」
「あー。上がったんだ?」
「うん。で、は?もう寝たのー?」
「自分の部屋で手紙書いてるよ」
「ママー!」と大きな声を上げながら、ドタドタと走ってくる。書き終わったのだろう。
「ちゃんとサンタさんにわたしてねっ!」と真剣な顔でにお願いしているのがなんとも可愛らしい。よく言われることだけど、目なんかは本当ににそっくりだ。性格もどっちかというとだと思う。
はオレほど気が強くはないし、の優しさがかなり受継がれていると思う。だから、こんなに「パパはダメ!」と拒絶されたことがない。・・・子供はよくわかんないね。
「ちゃんと渡すからもう寝なさい?」と言えば笑顔になり、「パパもママもおやすみなさーい」と言って、またドタドタと走って戻っていった。夜なのになんでアイツはあんなに元気なんだ。
流石幼稚園児だ。現役のオレでも今日は振り回されっぱなしだった。毎日こんなやつを相手にしている幼稚園の先生とがすごい。
がちゃんと部屋に戻ったのを確認して、手紙を開いた。白い画用紙が4つに折りたたまれた手紙だ。赤いクレヨンでデカデカと欲しいモノが書かれていた。幼稚園児!というような文字で。
『サンタさんへ
うらわレッズのユニフォームがほしいです。うしろにぼくのなまえとパパのせばんごうをいれてください。
より』
「レッズのユニフォーム?・・・持ってるよな?」
「SHINAだからいやなんじゃない?」
「も椎名じゃん。しかも代表のユニフォームじゃなくて浦和レッズのユニフォーム」
「レッズで世界3位になったからじゃないかな?代表よりも凄いじゃん!って興奮してたもん。でも、クリスマスまでに間に合うかな?ネームと背番号つけるの時間かかるでしょ?」
「クラブに頼んでみる。クラブで頼んだ方が速いだろ」
次の日の練習前にコーチに聞いてみると快くOKしてくれた。「椎名もちゃんとパパやってんだなー」とニヤニヤされたけれど。急いで作ってもらえるよう言ってくれて、早くても明日にでも届くらしい。
これで一安心だ。
「オフのひにクラブハウスにいくの?」というの質問を、自主練してくるからな。というちょっと苦しい言い訳(だって、もう試合はない)で家を出てきた。コーチがわざわざ届いたと電話をくれたからだ。
クリスマス用にラッピングされてクラブハウスに届いていた。ソノ中には浦和レッズからのプレゼントも入っているらしい。コーチに礼を言うとソレを車に乗せ、家へ向かった。
「パパー!ママー!サンタさんきたよー!!」
「本当ー?サンタさんなにくれたの?」
「みて、みて!パパ!レッズのユニフォーム!ぼくのなまえいり!」
「おー!良かったな。これでパパとチームメイトだな」
ユニフォームを着て「We are Reds!」とやってしまっているあたり、サポーターなのだがソコを言ってしまえば元も子もないので、の頭をぐりぐりと撫で回す。
そういえば、コーチが言ってた浦和レッズからのプレゼントとはなんだろう?レッズのユニフォームに興奮しては見落としたのだろうか?
「ー。なんか落ちてるよ、足元に」
「え?あ、ホントだ。おてがみだ!パパよんで!」
「なんでパパに渡すのー。ママだって読めるのに」
「だってにほんごじゃなかったもん!ママえいごにがてでしょ!」
「・・・確かに」
とが言い争っているうちにざっと読んでみたが、これは英語ではない。ポルトガル語だ。監督がわざわざ書いてくれたんだろう。最後にサインが書いてある。
ポルトガル語をマスターしているわけじゃないから完璧には訳せないが、ニュアンス的に間違ってはいないはずだ。
「だれからのおてがみ?サンタさん!?」といつの間にかの膝の上におさまり、オレを見上げている。監督からって言っていいんだよな?じゃないと、この内容はおかしくなるし。
「レッズの監督から」
「ええ!?ぼくに!?なんてかいてあるの!?」
「よーく聞きなよ?」
『レッズを愛しているへ
君が4番のユニフォームを着るということは椎名とはライバルだ。そのライバルを倒し、ぜひ我が浦和レッズに来てほしい。君のように浦和レッズを愛しているなら、私は大歓迎だ。いつでも待っているよ』
「凄いじゃん、!監督からオファーだよ」
「・・・かんとくがぼくに!?」
「パパもうかうかしてられないなあ」
深呼吸してから3秒後
(サンタさんありがとー!!)
071225 家長碧華
タイトル提供:てぃんがぁら