部活が終わり、部員全員が帰ろうとしている中、私は田島くんに渡しておきたいものがあったんだと思い出し、三橋くんと楽しそうにふざけている田島くんを呼んだ。そして、カバンからソレを取り出す。 「なんだー?」と言って田島くんが駆け寄ってきた。ハイ、コレ!といって自分に向けられたソレに田島くんは「ん?」を首を傾げた。



「次の対戦校のピッチャーの特徴を私なりに箇条書きしてみたんだけど」
「マジ!?まだビデオ見てないからすっげえ助かる!」



「あんがとなっ!」と本当に嬉しそうに笑う田島くんに手紙を渡す。告白とか書いてないから安心して読んでね、と冗談めかして付け加えると、田島くんの動きが止まった。 じっと手紙を見て、そのまま目を合わせないまま「じゃ、読まない」と呟いた。その言葉にこっちまで動きが止まってしまった。

前の試合のときに「がまとめてくれたやつすげえ役に立った!」と田島くんに言われたのが嬉しくて、今回もビデオや練習を観に行ったりしてまとめてみた。 ちょっとでしゃばりすぎてしまっただろうか・・・と不安になる。でも、読んで損はないハズだ。千代とも協力して作ったのだからウソなど一つもないし。



「読むだけ読んでよ」
からのラブレターなら読む」



ラブレター?私からの?え、ハイ?なんで?疑問形の言葉しか思い浮かばなく、ハテナを飛ばしている私に気付いたのか気付いてないのかはわからないが、いきなり「あーっ!わかった!」と大声で叫んだ。 田島くんが何をわかったのかがわからず、また疑問形の言葉が思い浮かぶだけだった。「わかった!」とスッキリしたいのは私の方だ。



「これは読む!ちゃんと読む!」
「う、うん?読んでくれるなら嬉しい、ケド」
「じゃ、また明日な!」
「・・・うん!明日ねー」



そして、次の日の部活がはじまる前の放課後に田島くんに呼び止められた。今日は朝練もあったし、クラスが一緒なんだから時間はいっぱいあったのになんで放課後? 田島くんのことだから渡し忘れてただけかもしれないけど。



!これ昨日の手紙の返事!」
「へ?返事!?返事書くような内容じゃないでしょ?」
「返事なんだ!で、オレは返事待つからなっ!」



私の手に手紙を押し付け「なっ!」と念を押すと頷いてしまう。私が返事を書くと約束したのに満足したのか、笑顔で両手を頭の後ろで遊んでいると、廊下から泉くんと水谷くんの話し声が聞えた。 「田島のやつどこ行ったんだ?」と泉くんが言っている。バタバタとドアへ走って行き廊下に顔を出して「泉ぃーッ!水谷ぃーッ!オレ、ここーッ!!」と叫んで手を振る。



「部活行くぞー!」
「おお!じゃ、オレ先に部活行ってるぞ。もはやく来いよ!返事書けよ、ゲンミツに!」



にかっと笑ってエナメルバックを持ち「泉ぃーッ!!」と叫びながら走っていった。元気いいなー相変わらず。でも、そんな田島くんがすきなんだけどねー・・・。

とりあえず読もう。・・・字、汚いなあ。えーっと?ピッチャーのとくちょーありがとな。わかりやすくてすぐ覚えれた。あ、よかった! 明日ビデオ見て細かいところ・・・かく、にんかな?確認しようと思う。やっぱ野球となると取り組む姿勢が違うなあ。普段もこんな感じになればなあ。あ、ビデオの用意しとかなきゃだな。アレ・・・終った。 これだけで、お返事書けってかー。田島くんは文通とかがしたいのかな?まさか、ね。

その数行下にデカデカとP.S.と書いてある。本題の方の文より文字が大きい。田島くんらしくて笑っちゃうな。



「追伸?オレは」
「オレはがすきだ!付き合ってくださいっ!」
「た、田島くん!?部活行ったんじゃ!?」
も連れてこいって花井がさー。ケータイに電話しても出ねえって言うから。しのーかだけじゃ手ぇ足らないから早く来てくれってさ」



ポケットからケータイを取り出すと着信を知らせるランプが点滅していた。開いて確かめると花井くんから二度もかかってきていた。うああ!花井くん、ごめんなさいっ!マナーのまんまで気付かなかった・・・!!

ケータイをポケットにしまい、カバンを肩にかけてすぐに行ける準備を取る。



「すぐ行くわ!」
ッ!」
「・・・へッ!?」
「返事手紙じゃなくて部活終ったら直接聞くかんな!じゃ、はやく着替えてこいよー」
「えッ!どうしよ、どうしよ!とにかく千代!着替えなきゃ!!」



更衣室へ走っているときに頭は「と呼ばれた」という言葉がエンドレスリピートだった。もちろん、田島くんに告白されたっていうのもだけど。 とにかく頭の比率を表すとすれば80%が田島くん関係で15%が千代で5%は花井くんやら部活のことだ。 でも、今は千代を助けに行かなきゃ!と思うようにして(実際そうだし)急いで着替えて急いでグラウンドへ向かった。



「千代ーッ!花井くんッ!ごめんね!!」
「おー悪いな。何か用事あったか?」
「ううん、大丈夫!千代、なにすればいい?」
「このボール全部直してほしいんだけど」
「今日はいっぱいあるね・・・ッ!よし、まかして!」



私はベンチで一人もくもくとボールを直す作業とみがく作業を行っていた。グラウンドからは「ばっちこーい!」だとか「サード行くよー!」とか野球部特有の掛け声が響いている。 「サード」の単語が聞えた瞬間パッと顔を上げサードを見つめた。



「あれ?田島くんじゃない・・・」



「サード行くよー!」の監督の声の後に「ハイッ!!」って田島くんの大きな声が聞えなくておかしいなとは思ったんだけど。そしたら田島くんはブルペンだ。でもブルペンから田島くんの声は聞えない。 ベンチとブルペンは一番近いから聞き逃すこともないと思う(だって田島くんの声だし)



「どこ行ったんだろ?」



千代に頼まれた仕事を放っておいて田島くんを探している自分は田島くんに惚れてるなあと気付くのに充分だった。そして、田島くんのあのセリフを思い出した。「部活終ったら直接聞くかんな!」 あああ!どうしよう!!と慌てると手に持っていたみがき途中のボールを落としてしまった。ボールはベンチを転がっていった。グラウンドの土が付き茶色く変わる。



「また一からみがき直し・・・!」



そこへフェンスがガシャンと開く音と「ちわっス!」という田島くんの声。びっくりしてそっちを見てしまい目が合った。にっと笑い「レガース取りに行ってた」と言って手に持っているレガースを見せてくる。 私が転がした(わざとじゃない!)ボールを見つけて拾いあげる。



の?」
「そう!みがしてたら落としちゃって」
「じゃオレ、ブルペンで使うから持ってっていい?」
「いいよー」



ベンチでキャッチャーの防具を付けてガチャガチャ鳴らしながらブルペンへ走っていく。今日はキャッチャーなんだ。ふう・・・。一つ息をはき、再び仕事を始める。 部活が終ったらなんて返事しようかなあと考えると手が止まり同じボールを30分以上も握っていた。でも、なんて返事しようかなあって考えるだけ無駄な気がする。だって、結論はもう決まってんだし。





追伸の方がおそらく本題
 (ストレートに私もすきです、かな?)(、手ぇ止まってるぞー!)(う、あ!ごめんなさいッ!)(プッ!変なー!)(田島くんのせいなのに・・・ッ!)





080113 家長碧華
 タイトル提供:as far as I know